第20話 変身ヒーローが異世界で生態調査する②
ゼードラギルド本部。
普段、受付がある正面ホールは、大勢のハンターがたむろしている。
壁際には小さな円形のバーテーブルが並び、数人のハンターがてんでに情報交換や世間話をしているのが、この場所の日常だ。
しかし、今日は違う。
壁にはギルドの紋章旗がズラリと掲げられ、奥には演壇が設置されている。
演壇を囲むように、幾人、幾百人のハンターが集まっている。
その目線の先には、演壇の中央に立ち、集まったハンター達を見つめ返す人物がいる。
このゼードラのハンターギルド。その長たる男。
ダーマッド・グラングリフ。その威威風堂々たる声が、天井高くホール中に響き渡る。
「これより、
割れんばかりの拍手が起こる。
ダーマッドは拍手が鳴りやむのを待ち、再び口を開いた。
「褒賞の授与に移る前に、この度の
一人のハンターとして、またこのギルドの長として、そして、この街に住まう者の一人として、心から礼を言う。
ありがとう。」
と、簡潔な言葉であるが、それを聞く者達、とりわけ先日のスタンピート討伐に参加した者達の胸を熱くする何かがあった。
数呼吸置いて、ダーマッドが続ける。
「さて褒賞だが、
そして――――とダーマッドが間を置く。
「そして、その中でも特に功績をあげた三名に、我がゼードラハンターギルドから特別報酬を支払う」
おおおお―――と会場がどよめき、熱を帯びる。
「名を呼ばれた三名は、壇上にあがってくれ」
ホール全体がざわつく中、先ほどよりも更なる大音声が発せられた。
「鬼崎ケンスケ。
続いて、マリア=アイゼンファウスト。
そして、アンナエル=マルディール」
三名の名が告げられると同時、ホール全体が歓声で震えた。
降り注ぐ歓声の中、三人が登壇し、ダーマッドのとなりに並ぶ。
ひとしきり歓声を聞くと、ダーマッドが手を挙げてハンター達を制した。
「諸君も知っての通り、この者達はたった三名であの
よって――――
ダーマッドの言葉を会場が待つ。沈黙
「鬼崎ケンスケ――二階級昇格!
マリア=アイゼンファウスト、アンナエル=マルディール――各一階級昇格!」
場が一瞬静まり、その後、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。
彰の拍手が鳴り止むと同時に、ダーマッドが再び、もう一度三人に呼びかけた。
「今回、君たち三人の功績は、昇格という形式にとどまらず、ゼードラという街そのものを救った英雄として称えられるべきものである。
よって、特別な栄誉を用意した」
壇上に並んだ三人の前で、ダーマッドが両手を掲げた。
「まず、アンナエル=マルディール、マリア=アイゼンファウスト──君たちには、ゼードラ市民評議会およびギルド連合が合同で認定する栄誉勲章、
──“
マリアは胸に手を当て、小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます」
「特に、マリア=アイゼンファウスト。
貴女は、グロリティアードのブレスからこの街を守り、単身その脅威に立ち向かった。
その技量と勇気に敬意を表したい」
ダーマッドが右手を胸に当て、マリアに一礼する。
それは儀礼的なものではなく、心からの物であることが誰の目にも明らかであった。
そして、その横でエルは少し戸惑いながらも照れたように微笑み、「っス! うわぁ、めっちゃ光ってるっスね!」と答えた。
そしてダーマッドは、最後にケンスケの方を見やる。
「鬼崎ケンスケ……君には、このゼードラの守護者、強き者の証として“
その言葉と共に、儀礼用の刺繍入りスカーフが広げられた。
深紅の布地に金糸の縁取り、そしてゼードラの紋章がさりげなく編み込まれている。
ダーマッドが丁寧にそれをケンスケの首に巻くと、スカーフはふわりと風を受けたようにたなびいた。
「その布は、決してただの飾りではない。希望を背負い、闘いの先頭に立つ者にこそふさわしい。君がいつか本当の意味で“その姿”に辿り着いたとき、その背にはきっと、この光環がなびくだろう」
ケンスケはしばし無言のまま、そのスカーフに触れた。
ダーマッドはケンスケの正体を知らない。恐らく、人々の先頭に立つ姿こそ、ケンスケが目指すべきものという意味の言葉であったろう。
しかし、ケンスケはその身に宿る力を思わずにはいられない。
いつか、力を取り戻す日が来るのだろうかと。複雑な想いを抱えている。
ケンスケは無言で一礼し、横のマリアは感激の面持ちで目を潤ませた。
エルは満面の笑みで「っしゃーっス!」と腕を振り上げてガッツポーズを取る。
やがて再び拍手が鳴り、三人の胸と背に刻まれたそれぞれの“英雄の証”が、晴れやかに讃えられた。
歓声が上がり、式典が終わる。
三々五々、ハンターたちが解散する中、ダーマッドがケンスケたちを手招きした。
「時間を取らせて悪いな。話がある。もう少しだけ付き合ってくれ」
ギルド長室に通された三人を前に、ダーマッドが地図を広げながら「先日の話の続きなんだが」語り出す。
「“霧幻樹海”という名の古い森林地帯がある。かつて魔力結晶の採掘地として利用されていた場所だ。だが数十年前に封印されている」
「封印?単なる閉鎖ではなくてですか?」
マリアが疑問の声を上げる。
「そう、封印だ。稀にあることだが、魔力結晶が産出される地域では、魔素の濃度が人間の体に有害になるほど、異常に高くなる場合がある。
現在はある程度落ち着いているものの、高濃度の魔素を浴び続けた周辺の動植物は、完全にモンスター化してしまっている。
その辺のハンターでは調査もままならない。」
タイミング良くグラーナが報告書の束を横に並べる。
「最近になってその霧幻樹海から、強い魔力の干渉波が観測されている。おそらく結晶の異常成長か、あるいは別の要因だ。いずれにせよ、調査が必要だ」
「干渉波の発生源の調査と特定、必要であれば封鎖措置もだ。
本来であれば、青色等級以上のハンターに依頼する内容だ。
君達は黄色等級と緑色等級のチームだが、その実力は私が理解している。トライトロイドには、これを任せたい」
ケンスケ、マリア、エルは顔を見合わせる。
「・・・内容は把握した。しかし疑問が残る」
「なんだね?」
「なぜ俺たちなんだ?ぜードラには青色等級のハンターが所属しているだろう?」
それを聞いてダーマッドが「ああ」と苦々しい顔をする。
「それなのだが、先日、ぜードラに所属する青色等級のハンターチーム二組の内、一組は君達がリーダーを再起不能にしており、もう一組は先日のスタンピートでリーダーが重傷を負っている」
それを聞いてケンスケとマリアがそろって「あ・・・」と声を上げる。
勿論それは、ジェイド=メーサ。通称ジェル男、と
ケンスケは居たなぁそんな奴と言った顔をしている反面、マリアは自分を庇って負傷したラルフを想い目を閉じ、手を胸元で強く握った。
「理解できたかね?では、出発は二週間後だ。
馬車を手配しておく。準備を整えたら出発してくれ」
「「了解です」」
こうして三人は、必要な補給と装備を整えて霧幻樹海へと旅立つこととなった。
***
揺れる馬車の中、柔らかい日差しが帆布越しに差し込む。
「それにしても、あの時……エル、凄く強くなってましたよね。髪も急に伸びたりしたし」
マリアの声が静かに響く。
エルはちょっと照れたように笑う。
「そ、そうっスか? まあ、ちょっと鍛えてもらっただけっスよ」
「いや、あれは“ちょっと”ってレベルじゃない」
ケンスケが苦笑を浮かべた。
「じゃあ……その訓練って、どんなことをしてたんですか?」
「あー・・・・っス」
マリアの問いにエルが目をそらし、ケンスケをチラッと見る。
ケンスケは少し目を伏せ、思い出すように語り始めた。
***
時は
ケンスケとエルが向かったのは、ゼードラから離れた森林の入り口から浅層を中ほどまで分け入ったところ。
クエストをこなしていた間に見つけた、広く開けた場所で、適度に草地と砂地が分かれている。
低木がまばらに生えている他は、大きな石もなく、訓練には丁度いい環境の場所だった。
到着した二人は、早速キャンプの設営を完了し、訓練に入った。
訓練と言っても、二人で戦うでもなく、ケンスケとエルは、草地に向かい合わせで座りお互いを見つめている。
ケンスケはエルに向かって右の手の平をゆっくりと開いた。
その手の中には、魔法陣のように幾重にも複雑な幾何学模様が浮かび上がり、鼓動の様に青く明滅していた。
「これは、お前の肉体の強度を強制的に向上させるようにプログラムされた、ナノマシンのインターフェイスだ。
このナノマシンを、今からお前の体に射ち込み、身体の組成から作り変える」
「ケンスケさん、ちょっと何言ってるかわからないっス」
「要はだ。
俺なりの方法で、今からお前の体を、内側から強く作り替えていく。って話だ。
これにより、お前の肉体強度はアラハバキが求める基準を満たす。
アラハバキの機能を使うための条件が、エルの一族の
「やったっス!早速始めて欲しいっす!!!」
ただし――――と、ケンスケが続ける。
「このやり方は、本来は年月をかけて成長するはずのお前の身体を、強制的に作り替える。
当然、大変な苦痛を伴うだろう。
その苦痛に耐えきれず、精神に異常をきたすかもしれない。
身体の拒否反応で命を落とす可能性だって少なくない」
止めるなら今だぞ――とケンスケがエルに問う。
「ケンスケさん、自分は一族の、家族の仇を取らなくてはならないっス。
そのために自分はハンターになったっスけど、ずっと何の成果も出なかったス。
きっと、あのままケンスケさんとマリアさんに出会わなければ、何も成せないまま、ずるずると腐っていくだけだったっス。
なら、自分はこのチャンスに賭けたいっス」
だから大丈夫っスと、エルが静かに断言する。
その碧い目には強い決意と覚悟が宿っていた。
「・・・・わかった」
ケンスケが右手をエルに向ける。複雑な模様が光を増していく。
「……準備はいいな」
「いつでも大丈夫っス!」
ケンスケが右手でエルの左手をつかんだ瞬間、光が膨れ上がり、エルの腕に吸い込まれるように、一瞬で終息した。
「・・・え、もう終わりっスか?」
エルが、拍子抜けしたとでも言いたげに、自分の左手をさする。
「・・・・・いや。今からだ」
ケンスケがそう言った瞬間、エルの体が異常なほどのけぞった。
「っ・・・・がぁっ!!・・・・ギぃ゛い゛っ」
のけぞり、地面に倒れ込む。体の部位が意思を持ったかのように、不規則に痙攣する。
その度に、エルの口からは声にならない苦悶の声があがる。
ケンスケが駆け寄り、エルに寄り添う。
「エル。頑張れ。頑張ってくれ」
祈る様に手を握り、懸命に声をかけるが、エルからの返答は苦痛に喘ぐ音だけだ。
それから、何十分、何時間が経過しただろうか。空にあった太陽は既に、山陰に落ちようとしている。
不意に、苦悶に喘ぎ、痙攣を繰り返していたエルが動きを止めた。
痙攣は治まり、苦悶の声もない。
目を閉じ、すうすうと静かな寝息を立て始めた。
「なんとか第一段階はクリアしたか」
ケンスケがエルの手を握り、一人ごちる。
依然として厳しい表情のままだが、心なしか声には安堵の色があった。
「ナノマシンが身体を作り替える工程には段階がある。
まず、射ち込まれたナノマシンが体中に根を張り、要所にプラントを形成する。それこそ、神経を直接食い散らかされる様な激痛が伴い、肉体は異常な痙攣と発汗、心拍数の上昇など、深刻な反応を示す。
それが第一段階」
ケンスケはエルを抱きかかえ、テントに戻り、敷いてあった寝具にそっとエルを横たえた。
いつの間にかエルの身体の表面には、細く輝く光の筋が現れ始めている。
「第二段階は、身体の要所に設けられたプラントから送り出されたナノマシンが、全身に張り巡らされたナノマシンの根を通って、徐々に体を作り替えていく。
既に神経系は掌握され、苦痛こそ感じないが、肉体の生理的な拒否反応は発生する。
最悪、作り替えた身体と元の身体が馴染まず、細部から腐り落ちる可能性がある」
ケンスケはエルの傍に座り、その額と腹部にそれぞれ手をかざす。
「ほんの気休め程度だが、外から制御できる部分もあるはずだ。
頑張れよ、エル」
そう言って目を閉じると、ケンスケの両手が淡い光を放ち始めた。
明滅を始めるその光に呼応するように、エルの身体を走る光の筋が明滅を始めた。
いつしか太陽は完全に沈み、ケンスケとエルのキャンプは完全な闇に閉ざされた。
テントの中からは、鼓動のような光の明滅が持て出ていた。
***
空が白み始めた。
朝露が草木を濡らし、キラキラと輝いている。
ケンスケは変わらず、エルに寄り添っている。
ふと、ケンスケの両手の明滅が止む。
同時に、ケンスケが目を開けてエルを見つめる。
「そろそろか・・・」
ケンスケが言うと同時に、エルがゆっくりと目を開けた。
しかし、じっと目を開けたまま微動だにしない。
「・・・エル?」
ケンスケが声をかける。
返答はない。
そのまま重苦しい沈黙が続く。
もしや精神に異常を・・・?とケンスケが考え始めた頃、ぽつりとエルが口を開いた。
「・・・自分、わかったかもしれないっス」
「わかった?」
エルが身体を起こす。
誰を見るでもなく、じっと自分の手を見て語り始めた。
「分かったかもしれないっス。この体の事。自分の一族の事。
ナノマシン?スか?こいつが、自分の中に居て、色々見せてくれたっス」
エルがケンスケを見つめる。
目をそらさず、真っ直ぐにケンスケの目を見ている。
「ケンスケさん。
今なら、この身体ならやれそうな気がするっス」
「・・・エル?」
ケンスケが戸惑いの声をあげる。
「自分の身体が変わったのが分るんス。
手合わせ、お願いしますッス」
エルの決意の籠った目でケンスケを見詰めた。
***
訓練二日目 早朝。
エルはアラハバキを肩に担ぎ、ケンスケと対峙していた。
「身体の強化が成功したとは言え、まだ安定していない可能性がある。
あまり無理はするなよ」
言いながらケンスケが、エルに向かって構えを取る。
「了解っスよ!まずはアラハバキが、ちゃんと起動するか試運転するだけっス」
エルがアラハバキを正眼に構える。
「よし。いつでも来い」
ケンスケの言葉を合図に、エルがアラハバキを起動させる。
その瞬間、アラハバキが赤く輝き、
「わ、わわわわっ!やったっス!起動したっスよ!!!」
エルが喜んで飛び跳ねる。
ケンスケが「やったな」と声をかけようとしたとき、不意にエルが動きを止めた。
「エル?」
訝しんでケンスケが声をかける。
その声に反応したのか、エルがケンスケに顔を向けた。
「っ!」
そのエルの目が不気味に赤く染まり。人形の様な無表情になっていた。
次の瞬間、恐ろしい速度で斧がケンスケを襲う。
「――――抹殺対象発見――――個体名:ブラックオーガ―――
修正―――個体名:リベンジャーブレイド―――
接敵――――排除命令を実行――――」
エルの口から、発せられた言葉にケンスケが息をのむ。
「エル!何を言っている!」
声をかけるが、返答は斧による一撃だった。
「っく!」
ケンスケが横に跳んで斬撃をかわすと、打ち下されたアラハバキが空を切り、地面に叩きつけられる。
その瞬間、閃光が走り斬撃の軌道に沿って、数十メートル先までに地面が裂けた。
―――亀裂の底が見えない。これがアラハバキ本来の威力か―――
背中に冷たいものが走る。再び襲い来る斬撃。
回避しつつアナライズアイを起動する。
すると、アラハバキからエルの脳に伸びる一筋の経路が見える。
「アラハバキの制御システムに潜んでいた、
―――恐らく、エルの一族の遺伝子情報、肉体の強度に次ぐ、隠された第三の要素。
俺との接触がプログラムの発動キー。
「――――標的の身体能力予測修正――――
身体能力強制開放――――」
アラハバキが再び輝きを放ち、その形を戦斧から剣に変える。と同時に、エルの身体がミシミシと音を立てて変形していく。
腕が太く大きくなり、脚が獣の後ろ足の様にいびつな形になっていく。
短髪だった髪が伸びていき、地面につく程の長さになる。
変形が終わると、エルはゆっくりとケンスケに顔を向ける。
赤く光る眼が、ブレるように動きケンスケを捉えた。
「―――まずいっ!」
ケンスケが後ろに跳んだ瞬間、エルの足元の地面が弾け跳んだかと思うと、一瞬にしてケンスケの目の前まで迫っていた。
そしてその速度のまま繰り出される、奇怪な形状の剣。
ケンスケが着地する。エルとの距離は離れたが、その左わき腹の服は切り裂かれ、その中からは血が流れ出している。
――――先ほどよりも格段に速い。俺の身体能力に合わせて、自身の肉体を強化しているのか。
しかし、そんな異常な速度で肉体を変えていたら、いずれ肉体の耐久血を超えてしまう――――そうしたら、エルの身体は・・・―――
ケンスケは自身の脳の制御システムを起動した。
普段の機能の一部を使用する際の軌道ではなく、戦闘システム:ブラックオーガの全てを統括し制御する基幹システム。
――――
ケンスケの相貌が黄金の光を放つ。
視界は金色のコードが満たし、身体の上を何本もの黄金のラインが走る。
―――倍力機構:起動
―――戦闘状況を確認―――接敵―――
―――
――――目的:対象の排除―――拒否―――
――――目的修正:仮称
――――承認――――
―――――作戦行動 開始―――――
ケンスケが一直線に駆け出す。
何の工夫もなく、エルの真正面を目指して全力で走る。
「―――排除目標接近―――迎撃――――」
エルが大上段にアラハバキを構えて、ケンスケの頭をめがけて振り下ろす。
―――ここっ!――――
ケンスケは振り下ろされた凶刃を、両手で挟み、そのまま体を入れ替えて抑え込んだ。
「トリスメギストス!!システムを乗っ取れ!!!」
ケンスケが叫ぶ。
――――強制アクセス――――
アラハバキを掴んだケンスケの手が黄金に輝く。
その光が、アラハバキの赤い光を徐々に侵食していく。
「ギ、ギギ!」
エルがアラハバキをケンスケの手から引き抜こうと足掻く。
ケンスケは可能な限りの力でアラハバキを掴んでいるが、ジリジリと手が滑っていく。
「間に合え……!」
黄金と赤の光がせめぎ合う戦いが終わったのは、その数分の後。
アラハバキが全て黄金の光に覆われた瞬間、エルの身体がビクンと震え、一気に力が抜ける。同時に、いびつに歪んでいた体が元に戻り、ストンと座り込んでしまった。
「……ケンスケさん?」
直後、エルは顔をしかめた。
「いってぇ……体中の筋肉が悲鳴をあげてるっス……」
「エル、良かった。もとに戻ったか」
ケンスケが安堵の声をあげる。
よく戻ったなと、エルの頭をガシガシなでる。
「痛いっス!頭撫でられるのは嬉しいっスけど、身体がえげつない痛いっス!ちょっ、やめ!やめるっス!!」
降参!降参っスー!!とエルの悲鳴が響き渡った。
***
この日以降、アラハバキの中枢システムは、トリスメギストスにより完全に書き換えられた。
エルは、アラハバキの副次的効果である、身体機能の強化変化の一部が使用可能になり、アラハバキ起動時の身体能力・肉体強度が飛躍的に向上した。
ただし、現在のエルの身体機能はアラハバキの負荷に追い付いていない為、アラハバキを使用した戦闘後は強烈な筋肉痛に悩まされる事となる。
しかしながら、これは訓練を継続する事により解消される事が予測される為、エルはその後の訓練はむしろ積極的に行う意思を見せた。
しかしながら、訓練二日目はケンスケの怪我の手当てとエルの回復に努める事となり、新しい力に慣れる間もなく、三日目の夜明けを迎える事となる。
三日目。スタンピートの兆候が観測され、ケンスケとエルは即座にゼードラへ戻る決断を下す。
その足で、グロリティアードとの戦場へ向かい、討伐へ至った。
***
時は現在に戻る。
「……そんなことがあったんですね」
マリアの目が見開かれたまま、口元は驚きの色を残していた。
「あれから、ずっと訓練してるんスけどね。
未だにアラハバキ使うと、階段上がるのツラいっス……」
エルが苦笑しながら答える。
馬車の窓から差す陽の光が、三人の顔を柔らかく照らしていた。
やがて、御者の声が響いた。
「到着しました!」
三人が馬車を降りると、そこには深く暗い森林が広がっていた。
森林地帯の浅層でも最も中層に近い場所。
この森林を抜けたその先。
グロリティアードの様な巨竜が生息する森のさらに奥地。
今はだれも足を踏み入れない、地図にのみ記された地――
――――霧幻樹海――――
その中には、魔力結晶による汚染が確認されており、過去にも多くのハンターが未帰還のままだという。
マリアが魔力計を取り出し、魔力の干渉波が発生していないか、測定を開始する。
ケンスケは背中のザックをもう一度背負い直すと、森の入り口を睨みつけた。
「さあ行くぞ、“
静かに、しかし確かな足取りで、三人は霧の森へと足を踏み入れた。
新たな異変の核心へ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます