第139話 非日常に慣れた?

「では、そろそろまとめます。」


 きりんさんが作戦を伝え各々が準備を始める。


……。


「翔く〜ん!準備はいい〜?」

「ここまできたら気合です!」

「うん。よく分からないけど任せた!」


 腰にはロープ巻かれていて俺は今桟橋の上にいる。


「すまない。大変だと思いますが、なるべく早くこの案件は片しておきたいので…。」

「いえ、ルフィス学園長は向こうに行くことだけ考えて下さい。」

「申し訳ありません。よろしく頼みます。」


 まずは1つ目の指示。それはルフィス学園長をおぶり壊れた橋を跳び越える事。


 もし向こう側に行けない場合は、俺を踏み台にルフィス学園長が跳ぶ。その万が一で海に投げ出されないようの命綱が腰に巻かれたロープである。その手綱を握るのは、ルカさんのお兄さんセイルさんとルニアラさん。


「翔君、私は釣りが得意だ。安心して跳んでくれ!」

「セイルさん、あのでかいの釣るんですか?あ、でもそれだと翔さん一度食べられちゃいませんか?」

「ルニアラよ。細かい事気にするとモテんぞ……さぁ跳ぶんだ!」

「うわぁ〜超不安。」

「うちの子達が申し訳ありません。」


 さて…その海王種の気をそらす為に蟹を海に投げ込む役割は天河海で1番の力持ちラプテさん。


「いくぜ!うぉぉぉらぁぁぁ!!」


 投げられた蟹に合わせて走る翔。魚は一瞬投げ込まれた蟹に食らいつく…事はなく逃げるように桟橋に近づいた。


「蟹は嫌いだったか!」

「そんな場合じゃないわよ和歌。ほら追撃の準備しなさい。」

「分かってるよ、天!じゃ、早速予定は狂ったけど皆んなよろしくね〜」


 2つ目の指示で蟹を投げ込み注意をそらす事は裏目に出た。そしてもしもに備えて、遠距離支援として石を構える坂俣さん天河海部隊と先輩ときりんさん。


 跳び越えられず翔は海に。ルフィス学園長は…無事向こう側に着地。


 やれば出来るもんだと安心していたが、空中にいる俺は何もできず落ちるだけ。水面に口を開けた魚の海王種の元に。


「全軍撃ち方始め!」


 きりんさんの戦艦の合図の如く石が投げ込まれる。静かな風切り音と共に…。


「風切り音聞こえたんですけど!かすってますから!」

「翔くくんが何か言って…無いか!どんどんいっちゃおう。」


 魚に命中したのは3つ。距離があるからか近くで水飛沫があがるものがいくつかある。


「よーし、当たった。」

「私も当たったのか?」

「和歌さんときりんさんのは突き抜けてますね…。」

「奏人のは届いてすらいないわよ。私は当たっただけで突き抜けたりは無いけど。」

「シロクちゃん、もっと頑張らないと〜」

「ならロスアも投げなさいよ。」

「私が投げても届くかしら?…えい!」


―ひゅぅぅ…ぽちゃん。


「……よぉし!翔くんが食べられる前にどんどん行くよ。」

「和歌。今のを見なかった事にしないの。まぁロスアさんは見守ってて。」

「私の分までよろしくねソラちゃん。」


 飛んでくる弾丸、然り石が投げ込まれる。投げられた込まれた石が少しずつ当たるものが増えてきた。

 そして突き抜けてくる先輩ときりんさんの弾丸。俺に当たらないことを祈りつつ、ロープを引き寄せる2人に身をまかせる事以外に出来る事を考えてみる。


「漫画みたいに空中蹴って跳たり…。」


 足に魔力を溜め込むイメージをして空中に足場を!


―すかっ。すかっ。


 まぁ無理だよな。うん、知ってたし。周りから見れば足をバタつかせてる様に見えてたとしても恥ずかしくないもん。後はロープで繋がった先にいる2人に任せよう。


「行くぞルニアラ!引っ張れー!」

「はい。セイルさん。」


 2人でロープを持ち走り抜ける。


「っぐ!」


 一瞬体をぐっと引っ張られ骨が軋む。ギチギチっと音がどこからか聞こえてくる。


―ギチギチ。


「ギチギチ音が鳴りやまないってやばいか俺の体…。」

「「うぉぉぉぉ!」」


―ぶつん!


「って切れたぁぁぁ!!」

「ん?軽くなったな。一気に引くぞルニアラ。」

「はい。セイルさん。でも何か声が聞こえたような?」


 海王種真っ逆さまで食べられるかと思っていたけど。石の効果で海王種は先輩達の方を見ている。口にダイブする事は無さそうだ。


 先輩ありが…。


―ヒュン。ヒュン。


 食われる心配は無くなったけど、石の狙撃が終わらない。戦場のど真ん中に投げ出された兵士って構図なのか、成る程ここ危険じゃね?


「まずはこの魚どうにかしないとか。それにしてもこれだけ接近できたんだ、一撃でも打ち込んでやるか。」


 魔力を体に巡らせる、右手には魔力を多く注ぎ込む。


「はぁぁぁ!」


 魚の体に当たる寸前、右から風の流れを感じた。


「なっ!!これは!」


―スパァン!!


 大きい衝撃を感じ俺はどこかへ飛ばされる。


「うぁぁぁぁ…!!」


―どこぉぉーん…。


 あぁ〜生きてる?そして地面もある。


「やぁ翔くん。お帰りなさい。」

「ケホケホ。ただいま戻りました?」


 海王種の魚に吹っ飛ばされて、先輩達のいる砂浜まで戻ってこれた。ルフィス学園長は無事送り届けられたから、まずは作戦成功って事で。


「これだけの事やって、しかも海王種に打ち込まれてピンピンしてるってさ…。」

「坂俣さんどうかしました?」

「いや、なんか驚くのも慣れてきたわ。」


 言われて俺も感じたけど、あれだけの事あって無事だったのは凄いよなぁ。非日常に慣れたのは俺の方かもしれない。


 さて気を取り直してどうにかしないとな。戦いはまだまだこれからなんだから。

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