第90話 方向音痴を極めた人。

 網野さんに着いて行き、俺達は学園の外に来た。


「これから2人には魔力の使い方について重点的に訓練を行う。」

「ん〜外は気持ちがいいの〜」

「夏なのにここは涼しいね〜」

「2人とも始めてもいいか?」

「は〜い。私はいつでもいいよ。」

「おっとすまんの。続けてくれ。」

「まだ何もしてませんし、始まってもいないですけどね。」

「…始めるからな。」

「網野さん。まずは何からしますか?」


 網野さんは朝から訓練モードだが、学園長と先輩はマイペース。このままほっといてもあれなんで、俺は会話を進める事にした。


「手っ取り早く行くには戦う事なんだが。」

「戦うってまた熊さんとですか?」

「まぁそう思って学園長にも来てもらった。」

「ん?わしが居ると何かあるのか?」

「討伐の話とか話を知ってそうだと思ったので…。」

「それなら騎士部隊に聞く方が早いの。」

「案内お願いしても良いですか?」

「うむ。ワシが先頭行く。和歌か翔が最後尾任せたい。いいかの?」

「なら、俺が後ろ行きますよ。」

「そうか。ならば翔よ。網野殿が変な方向に行かないか気をつけて見てくれ。」

「着いて行くくらい出来ます!」

「そう言って過去に迷子になったのは誰じゃ?」

「っぐ…。」


 前は最後尾を網野さんが走り、気が付けば居なくなっていたらしい。方向音痴とは知っていたが、まさかそこまでと俺は思っていた。


 そう、この瞬間まで…。


「はぁはぁ…やっと追いついた。」

「翔か…。」

「翔か…じゃないですよ!なぜあそこで曲がるんですか!?」

「…魔物の気配がして少し前を見ていなくてだな。私は前を走っていたつもりなんだが。」

「ここまで極めるとは思ってませんでした。」

「…すまん。」


 ここは森に中で、今は俺と網野さんしかいない。そこまで速く走っていなかったが、網野さんが突然脇道に逸れたと思ったら走る速度が変わった。前に学園長と先輩の背中が見えなくなって、追い付く為に速度を上げたらしい。まぁ2人の位置は地図で確認出来るから、追い付くのは問題ないんだが。


「俺が前走って、網野さん1人になると…うー…あ。良い手がある!」

「どうした?」

「網野さん、ちょっと走り難いですがしばらく俺に合わせて下さい。」

「へ?」


 そう言って俺は網野さんの手をとる。


「はにゃ!?!?」

「これなら離れませんよね。」

「う、うぅ…。」

「ん?走りづらいのであれば、抱いて移動でも良いですけど?」

「!!い、いえ。こ、これで。は、走りますぅ…。」

「顔赤いですが、少し休んでから行きますか?」

「だ、大丈夫。い、行きましょう。」


 まだ赤いけど網野さんが大丈夫って言っているし行くか。地図を開いて2人が移動していないには分かってる。

 きっと目的地に着いたか、待っていてくれてるのだろう。思ったほど離れていないので、すぐ追いつけるだろう。


「お、翔達が来たみたいだぞ。」

「お待たせしました。」

「いや。そんなに待っていないが…網野殿は大丈夫か?」

「きりんちゃん顔真っ赤だよ〜。」

「っ!?」

「あ、すいません。少し速かったですか?」

「い、いえ。」

「違うよ翔くん。きりんちゃんは…むぐ。」

「わ、和歌ぁ!?」


 学園長と先輩に合流出来て、目的地まで後少しの所で待ってくれていたみたいだ。先輩が網野さんを見て何か言おうとしたが、隣に居た網野さんは凄い速度で先輩の隣に行って口を塞いだ。

 2人は何かコソコソ話しているがここからでは聞こえないな。そんな中で学園長は俺に近づいて来る。


「翔もなかなかに大胆だの。」

「え?何がですか?」

「何を言う。網野殿のあの態度は、翔の事…むぐ。」

「て、テトラさん!」

「むぐぐ。…ぷは!分かった何も言わんよ。」

「2人ともどうしたんですか?網野さんが何かあったんですか?」


 俺が2人に何があったか聞くと、学園長は驚いた顔をする。


「翔まさか!?…いや。ワシからは何も言えん。」

「翔くん…きりんちゃんガンバだよ。」

「う、うぅ…。」


 女同士で何か伝わるものがあるんだろうと、俺は深く突っ込まずただ考え込むだけだった。

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