第52話 掴んだ糸口。

俺はヘレンさんに何度か打ち込んで気がついた事がある。

バドミントンと同じように戦略ってあるんだ。

極力触らないよう攻撃、速さ重視で打ち込む。

何度か掠る事ができたけど、このまま打ち込んでいても決定打はない。

そう思い距離を取ったが、ヘレンさんは無理に距離を詰めようとしない。


「波は飛ばせないのか…な?それとも…。」

「…。」

「もう少し強めなのを入れてみるか。」


俺は一気に距離を詰める。

そのまま右ストレートを腹部に…それに合わせてヘレンさんも右から殴ろうとする。


「なっ!?」

「…ほぅ。」


速度は速めたつもりだったけど合わせられた。

迷った末の攻撃とヘレンさんの攻撃を受けた事を考えて、俺は攻撃を止めて回避した。

ヘレンさんも感心した様な声がしたから、避けて正解だったかも。


「中途半端な攻撃はダメですね。」

「…分かってるな。」

「見てますから。さて、どうしますか。」


とは言え、次の手が無いわけじゃない。

ローランドさんの攻撃は有効じゃないのはなんとなく分かる。

俺が勝てる条件から考えた方がいいか。


「止まっててもしょうがないな。よし!」

―シュバ!ヒュッ!シュバ!チリ

―シュバ!チリ


今の所は速度は勝てそうだ。

あとは反撃されないで手数を打ち込む。


―シュバ!ヒュッ!シュバ!ピッ。

「っく!?」

「……。」


俺はまた距離を取った。

目が慣れてしまったか、ヘレンさんの手が掠った。

掠っただけなのに、腕が痺れた。


「掠ってこれか、あの手怖いな。」

「…ふっ。」


打てば打つだけ目が慣れる。

攻撃パターンは変えてるけど、いずれは掴まれる気がする。

…掴まれる?なんでそう思ったんだろう。

もしかして、これは試す価値あるかも。


「…いきます。」

「…あぁ。」


距離を詰めて、上段攻撃のフェイントから下段の蹴り。

フェイントを読んで反撃に移るも、下段攻撃を後ろに下がりやり過ごすヘレンさん。

俺は攻撃を続ける。


「せい!はっ!」

「…む。」


ちょっと露骨に下段を攻めているが、反撃の数は減った。

今の所は有効な気がする。

5分の間に出来る事はやっておきたい。


「…ここだ!」

―ゴン!

「…っく。」


やっとまともな攻撃が当たった気がした。

俺はやっと掴んだ糸口に少し油断した。


―ダン!!

「くっ…な!?」


俺はその場に跪いた。


「そこまで!」

「…。」


網野さんの合図で戦いは終わった。

ヘレンさんの攻撃は俺の目の前で止められた。

俺は何が起こったのか分からず、跪いたまま立てなかった。

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