第67話 新しき年の始まりの日
静かである…
聖気―
普段は慌ただしい駅前の通り。
元旦は殆ど通る人も少なく、柔らかく穏やかな少し冷たい空気に包まれている。
新年の挨拶を交わす人々の穏やかな笑顔。
店はやっていないが扉の鍵は開いている。
さっき届いた年賀状を見ながらラジオでAM放送を聞いている。
”おめでとうございます!”を連発しているガチャガチャした感じが、日頃の店のBGMと全く違ってかえって新鮮な気持ちになる。
ふと、年賀状を見ていた手が止まる。
それは、ミス・モーニングからのだ…
そう云えば、この街にいた時には、わざわざ年賀状なんかは書くはずも無いので、全く初めてのものである。
ミス・モーニングらしく律儀である。
元気そうでなにより…
着々と幸せに向かっているようである…
少し迷ったが、ごく普通にごく普通の年賀状を書き、老犬の散歩がてら駅前のポストへ。
時折覗かせる太陽の陽射しも手伝ってか、少し暖かな気持ちになった。
お昼ちょっと前―
“カランコロン”と、扉が開く。
老犬がワンと鳴く。
レンジでお餅を焼いていた私が顔を上げると、彼女が、冷たい聖気の中をやって参りましたという感じで、頬っぺを真っ赤にして入って来た。
「明けましておめでとうございます」
”やっぱり来たな”
と、いう顔をする私。
“やっぱり、やっぱり来たなという顔をしたな”
という顔をする彼女。
「はい、これ」
と、少し大き目の鍋をカウンターの上に乗せる。
”???”の顔の私に、
「お雑煮です」
彼女が鍋のふたを開けるとお雑煮の良い香りがフワッと広がった。
と、いう訳で、私がきな粉餅にしようと焼いていた餅は、数分後にはお雑煮の中で野菜などと共にグツグツと音を立てていた。
彼女は、“お雑煮”と一緒に持って来てくれた小さなお重のおせち料理をテーブルに並べてくれた。
思わぬご馳走、正直驚いた私。
「こんなに、よかったのに」
と、言うと
「これも入れて、あれも入れてと思ってたら、こんなになっちゃって」
と、少し照れ笑い。
今年は思わぬ贅沢な正月になってしまった。
お煮しめは彼女が作ったらしい。
なかなかのお味でした。
私は少し酒をいただき、心地良し…
楽しい時間は、スーッと、私の横をすり抜けるかの様に過ぎていく…
気がつけば夕方。
“もうそんな時間か…”
いつの間にか静かな雪がパラパラと静かに、静かに降っていた。
心暖まる元日に白い彩りを添えてくれていた…
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