3-10 反省しよう
「で、どうするの?」
楓はどこまでも、なし崩しを認めないつもりのようだ。
「少し冷静に考える時間が欲しい。今は色々ごちゃごちゃしてて、頭ん中が纏まらねえんだ。」
宗一郎は一度引き下がる。
「そう。でも、あまりのんびり考えてる時間も無いと思うよ。」
しかし、楓はしっかりと釘を刺すのを忘れない。
「行こうぜ。」
「ああ。」
「行くって、どこにだよ?」
司はまだ分からないんだろうか。
「宿屋に決まってるだろ。ここは俺たちの家じゃないんだ。」
司は不思議そうな顔をする。
「ここは僕たちの家だろう?」
「違うよ。ここは、カエデが借りてる家。メシアから家賃貰ったことないけど、なんで自分たちの家だなんて思ってるのかな? 図々しいにも程があるんじゃない?」
楓はかなりご立腹のようだ。
「だから、宿屋行くぞって言ってるんだよ!」
さすがに宗一郎も苛立っているようだ。
「あ、悪いんだけど、その荷物は置いたままで良いか?」
「まあ、それくらいなら良いけど。」
「サンキュー。すまんな。」
メシアの三人が家を出ようとしたところに幸一と一之進が帰ってきた。
「おう、随分早いな。中邑、宿行くぞ。」
「オーケー。早く休みてえよ。」
そういう一之進の声は本当に疲れている。
「あとちょっとだ。もうちょっとだ。ベッドおおおお。」
そして、疲労のせいか、敬が壊れかけている。
宿の受付で一人銀貨二枚を払い、上階の寝室へと上がるとメシアの四人はようやくベッドにありついた。
「やべえ、一瞬で眠れそうだ。」
宗一郎の言葉に返事は無かった。
翌朝、『メシア』がカエデ宅に向かうも、既に出かけているようで、誰も家にいなかった。
宿でゆっくり朝食を摂っていればそんなもんだろう。カエデがわざわざ何時に来るのかも分からない彼等を待つ理由などない。
四人は取り敢えずハンター組合に向かい、適当な仕事が無いかを探す。
下級の仕事は相変わらず少ない。その上、彼等四人だけで完了できそうな仕事となると、一つも無かった。
「俺らって、結局何もできないんだな。」
一之進は現状にかなり悲観的になっているようだ。いや、現実を見るようになってきたと言うべきか。
「薬草なら採って来れるんじゃないか?」
しかし、司はどこまでも楽観的だ。
「どれならできる? 生えている場所とか見分け方が分かるやつあるか?」
「森に行ってみれば分かるんじゃないか?」
「清水さ、それで上手くいったことあったか?」
「やってみないと分からないだろう?」
「だから、それがダメなんだろ? やってみました。ダメでしたじゃ話になんねえんだよ。それで今までどれだけ失敗した? 俺らには慎重さが足りないんだよ。 二人も死んでまだ分からないのかよ。」
「久しぶりにウサギでも狩ってくるか? 確かあれは六級でも良いんだよな。」
「聞いてみるべ。」
受付で確認すると、四人なら一、二匹ならば大丈夫とのことだ。
宿代が四人で銀貨八枚なので、ウサギ一匹だと赤字だが、二匹狩れば黒字になる。
早速、ウサギ狩へと西門に向かう。みんな、色々考えているのだろうか、無言で歩いて行く。
「北と南、どっちにする?」
門を出たところで、宗一郎がみなに問いかける。
「北じゃないのか? 南だと少ないだろう?」
司が間の抜けたことを言う。
「清水、お前何匹狩るつもりだよ。一、二匹って言ってるじゃん。」
敬にまで突っ込まれている。
「でも、まあ、北にしておくか。南側の七級の狩場荒らすのも悪いからな。」
一之進が結論を出すと、一同は畦道を北へと向かう。
四人だと、人数に任せて囲んで追い込む手法はとれない。しかし、四人ともがウォータービームを使うことができるわけで、見つけさえすれば、ウサギくらいは問題なく狩れるはずである。
昼前に畑を荒らしている三匹のウサギを発見し、特に問題も無く二匹を仕留め、一匹を畑の外側に向かって追い出す。
「クッソ、重てえ。」
「二人で一匹はキツイって。」
「そういや、一番最初は一人一匹運んだよな。」
「あれ、マジで地獄だったよな。」
「でもカナフォスのオッサンは一人で二匹運べるとか言ってたぞ。」
「化物かよあのマッチョ。」
メシアの四人はブーブー文句を言いながらウサギを運ぶ。
「僕たちも荷車を買おう。」
「いや、要らねえだろ。だから何匹狩るつもりなんだよ清水は。一日に一匹か二匹って言ってるんじゃん。」
一之進は唐突な司の提案を即答で却下した。
「しかし、有った方が楽だろう?」
「そんな金どこにあるんだよ? 一日の稼ぎ銀貨十枚半。出費銀貨八枚半。さて、手元に残るのはいくらでしょう?」
宗一郎は呆れてウサギを落としそうになる。
「あれ? それって雨降ったらヤバくね?」
「ヤバいって。余計な物買う余裕なんて無えって。」
「そんな事より、これからどうするんだ? っていうか、昨日、俺が居ない間にどんな話してたんだ?」
一之進が思い出して聞くが、誰も答えようとしない。
「いや、そこで黙られても超困るんだけど。状況まったく分かんねえよ。」
「話すと長くなるんだけど、村田にどうすんだって言われて何も言えなくて、んで、先生に我慢が足りないって言われた。」
「で?」
「だいたいそんな感じだった。」
「めっちゃ短えな。どこが長えんだよ。」
「あ、あと反省と後悔は違うって怒られた。」
宗一郎は要約する能力が高いのか、説明力・語彙力が低いのか、どちらだろう?
「土下座するしかねえか……」
暫く黙って考え込んでいた一之進がポツリと言う。
「それで許してくれると思うか?」
「分かんねえよ。でも、他に何かできることあるか?」
「クラスメイトに土下座するのはどうかと思うのだが。」
「清水さ、もう何ヶ月学校行ってないと思ってんだよ。クラスメイトとか今更すぎじゃねえか?」
一之進は少しは客観的に考えるようになってきているようだ。
彼らがこの世界に来たのが三月十日で今日が八月十二日だから、もう五ヶ月が過ぎている。日数にして百四十二。地球とは少し季節がズレているので、稲峰高校は既に夏休みが明けている。時間が経つのは早いな。
「だいたい、二人も死んでしまったのに、何もしてくれないどころか追い出すとか酷いじゃないか。」
司はめげずに不満ばかり言う。自分たちが被害者だとでも思っているんだろうか。
「牧田と西村は俺たちのせいだろ……」
「で、なんて言えば良いんだ?」
「日本に帰っても牧田と西村の親に説明できねえよ。」
「そっちは小野寺先生も巻き込んで考えようぜ。」
「一緒に考えてくれるか?」
「たぶんな。生徒が悪いんでも一番先に文句言われるのって教師だろ?」
「とりあえず今は、俺たちがこれからどうするかだ。ええと、なんだっけ? 我慢が足りないだっけ?」
一之進が話を戻す。
「それと、後悔と反省は違うって。」
「それはなんだ? 後悔しているようには見えるけど、反省しているように見えないって事か?」
「まあ、そういうことだろうな。」
「よし、じゃあ、反省すっぞ。」
一之進は前向きだ。
「まずは、何を我慢すれば良いのかだ。」
「小野寺は他人の話を聞けって言ってたよね。」
「いや榎原、言ってたよねって言われても、俺いなかったから。」
「あ、ごめん、そんなこと言ってたんだよ。珍しく先生みたいなことを。」
「でも、そんなに俺ら他人の話聞いてないかなあ? 自覚が無いだけか? つもりだけなのか?」
宗一郎が眉間に皺を寄せて考え込む。
「あー、そういや清水は聞いてないかもな。」
「そんなことは無いだろう!」
宗一郎の話を即座に否定する司。
「いやいやいや、それだよ、それ。今のそれ、どういうつもりで言った?」
「え? いや、だって、僕はちゃんと聞いているだろう?」
「いや、聞こうとしてないだろ? 今、田中が自覚が無いって話したろ? できているつもりでも、できていないかも知れないって言ってるの、聞いてなかったのか?」
司は目を白黒させている。
「清水さ、俺の話を否定して止めさせようとしたよな? それって、俺の話を聞こうとしていないって事じゃねえのか?」
「違うと思っても、反論して人の話止めるなって。我慢して相手の言うことを最後まで聞けってことだよ。」
「いや、僕はそんな積もりじゃなくてだな。」
「じゃあ、とりあえず、相手の話が終わるまで黙って聞くってことかな。 それができないんだったら、幾ら頭下げてもダメだと思うな。もちろん、俺たちも気を付けるけどさ。清水も気を付けてくれるか?」
その後、ハンター組合に着くまで無言のままだった。
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