2-04 会議

『春雷』は閉門直前に町に帰り、ようやく換金を終えて、リーダーが会議室に顔を出した。

「ミアスローンか、お前は無事だったか。」

「ええ、私たちは、って無事じゃないパーティーがあ」

 ミアスローンの視線がエモウテミで止まり、言葉を失った。

「『大樹』が? まさか?」

「落ち着け。お前も座って聞け。」

 明らかに動揺するミアスローンにカナフォスが宥めるように言う。

「もう、門は閉まっていますし、春雷さんが最後ですね。では、簡単にまとめます。第一に、魔物は食事、狩の邪魔をすると凶暴化する。第二に、群れのサイズが二十八を超えることもある。対策は複数のチームで協力して索敵を行い、敵を早期に発見すること。そして、最初から全力で攻撃すること。」

「凶暴化? それに二十八って。多くて八匹くらいまでの群しか見ていないぞ。」

「俺たちは凶暴化した三十匹と戦って死ぬかと思ったよ。」

「カナフォスさんが? そんな、それじゃあ他の人じゃ……」

「五級のチームの六つが全滅している可能性があります。まあ、昼までに一度魔物の換金をしてそれ以降姿を見かけていない、と言うだけですから、実は家で寝ているのかも知れませんが。」

「それは無えだろう。本当に寝てたらぶっ飛ばすぞ。」

 バナセンキが軽口を言うが、その表情は暗い。やはり、彼も全滅したと思っているのだろう。


「繰り返しますが、これ以上、犠牲者を出すわけにいきません。皆さん、他に何か情報や意見がありましたら遠慮なく言ってください。」

「では、私から。まず、魔物は高い声に寄ってきます。女性がいるチームは気をつけてください。二つめ、凶暴化した奴らは、群でまとまって動きます。防御を捨てた攻撃特化の戦術と思っていただくと分かりやすいですね。」

「そんな奴らならどうとでもなるんじゃねえか?」

「二十一匹がまとまって後衛に突っ込んできたら、前衛の方はそれを止められますか? 先程も言いましたが、死なない限り止まらないんですよ? 止めるって全滅させるって意味ですからね。」

 軽口を叩いた男は絶句する。

「敵の数が一人一殺で終わる程度ならば問題ないんです。」

「お前らはどうやって勝った?」

 ノキチェイが単純な疑問を口にする。

「私が囮になって敵を全部集めて、魔法を叩き込めるだけ叩き込みました。見境なしに。本当に私を巻き込むとか構わずに撃ってくれましたからね、死ぬかと思いましたよ。お陰で畑はメチャクチャ、魔物の半数は素材を取れなくなりました。」

「どうやって囮になった?」

「声です。先ほども言いましたが、奴らは高い声に寄ってきます。全力で悲鳴を上げたらまとめて全部私のところに来てくれました。」

「カナフォスさんからは何かありませんか? 凶暴化した奴らと戦った者として。」

「そうだな。奴らはしつこい。とにかくしつこい。刺しても切っても食い下がってきやがる。数で勝負されたら終わりだ。その前にパワーで圧倒するしか無い。弱点とかはあるなら教えて欲しいくらいだ。」

「他に無いなら、この話はこれで良いですか?」

「一ついいか?」

「はいどうぞ。」

「俺たちは五級なんだが、その凶暴化した奴ってのに勝てるのか?」

「数が少なければ、問題無いと思いますよ。私たちも朝はヤマトの四人だけで狩をしていまして、その際に凶暴化した四匹の群は倒せましたから。油断せずに対応すれば大丈夫だと思います。自信がなければ、複数チーム合同で動くとかしてください。私たちも単独で動く気はしません。」


 他に意見が出てこないのを見て、優喜は次の話へと進める。

「魔物は思ったよりも早く、多く、町の近くに来ています。このままでは、農業も交易も壊滅的打撃を受けてしまいます。既に東西の街道を越えて、南側にまで入り込まれていると考えた方が良いでしょう。明日の朝からは六級以下は町の外に出ないようにすべきかと思います。」

「俺たちの手に負えるのか?」

「できることをするしかありません。明日の朝は、全チーム南門から一斉に出て、畑に入り込んでいる魔物を狩りながら北上していきます。そして、東西の街道を防衛線として、最低でも南側を死守したいと思います。全チーム、足並みをそろえて頂くようお願いできるでしょうか。」

「どうしても、そうしなきゃならんのか?」

 四級パーティーから不満が出る。

「私としては戦力の分散は避けたいです。もちろん、私には皆さんに命令をする権利などありませんから、どうしても賛同を得られないなら別の策を考えなければならないのですが。」

「そもそもそれが余計なんだよ。それぞれが自由にやれば良いじゃあねえか。俺たちは兵士じゃねえ。組織だの何だの言われたくないからハンターなんだよ。」

「くどいようですが、これ以上の損害を出す余裕は無いんです。死ぬのは勝手ですが、残った人たちの負担も少しは考えてください。」

「まるで俺らが殺されるのが前提みたいな話だな。」

「はい、そうですよ。逆に聞きたいのですが、何故、あなたは自分が死なないと思っているのですか? 少しは状況を考えてください。私だって全チームが元気に戻ってきていたらこんな話はしていませんよ。」

「四級になったばかりのガキが偉そうに言ってるんじゃねえよ!」

「だから何ですか。くだらない事ばかり言っていないで、少しは真剣に魔物の対応策を考えたらどうなんですか。ガキに偉そうにされたくないって、それは自分や仲間の命よりも大切なことなんですか?」

「ウスイ、その言い方は無いだろう。ムレイグも止めろ。」

 バナセンキが制止に入る。

「すみません。必要な言葉が足りなくて、要らない言葉が多いとは自覚はしているんですが中々上手く行かなくて……」

 優喜は頭を下げて言う。

「で、足りていない言葉とやらを聞かせてもらおうか?」

「話の前提の部分ですね。まず、魔物はウサギを食べます。良いですか? 奴らはウサギを襲うんです。」

「そりゃあ、まあ、食うだろうなあ。」

「ウサギは黙って食べられますか? 襲われたウサギはどうすると思いますか?」

「逃げるだろ。」

「どこに?」

「どこって、森か?」

「この辺りに棲むウサギは、森に向かっては逃げないんですよ。逃げるなら草むらや畑に向かってです。ここが大事なポイントです。ウサギはこちらに向かって逃げてくるんです。」

 そこまで言うと、優喜は部屋をゆっくりと見回す。

「町の北西の草原と森の境界付近に、本当に多くのウサギが生息しています。」

「そのウサギを追って、大量の魔物がこちらに向かってくる、ということか。」

「それが一つです。名前も知らぬ方。」

「エデキセだよ……」

「すみません、エデキセさん。そして、もう一つ大事なことがあります。」

「そのウサギを追っている魔物は凶暴化している。」

「さすが、カナフォスさん。正解です。」

「お前、莫迦にしてるのか? 俺らが戦ったのは正にそういう奴らだっただろうが!」

「それと、もう一つ。これは全く確証の無い私の憶測なのですが、恐らく、ウサギを追っている魔物は大集団になる傾向があるのではないかと思います。理由は割と単純で、そんな大集団を他に見ていないんですよ。私もみなさんも。通常だと四、五匹、多くて十匹程度だと思うんですがいかがですか?」

 そこここから、そんなものだろうと声が上がり、みな頷いている。

「大集団は凶暴化した状態でしか発見されていません。」

「いや、俺たちが見ただけだろう?」

「いいえ、もう一件ですよ。」

 カナフォスの言葉を否定して、優喜はエモウテミの方を見る。その視線を追って、カナフォスは渋面を作り頭を振る。

「そして、次に。凶暴化の仕組みはまるで分かっていません。どうして凶暴化するのか、いつ、どうやってするのか、逆にどうしたら凶暴化が解除されるのか、いつ解除されるのか。少しでも情報があれば、対策が立てやすいです。特に、解除する方法が分かれば、強制的に凶暴化を解除する魔法を組み立てられるかも知れない。」

「またお前らのオリジナル魔法か……」

 バナセンキは心底嫌そうな顔をして呟いた。優喜は取り敢えずそれを無視して話を進める。

「えーと、他には、この町以外にも魔物は向かっているだろうから、早くダンジョン自体を処理しないと国が亡ぶとか。そうそう、一級、二級の方たちはいつ戻る予定なのでしょう?」

「予定ではあと一ヶ月以上先だ。当面の戦力として期待しない方が良い。」

「では、私からはこれくらいですが、誰か何かありますか?」

「特に無ければ、明日、どうするかなのですが。」

 優喜は改めてその話題を持ち出すと、カナフォスが結論を告げた。

「全員で南門から出て、東西に分かれて進む。東西の街道までの敵を狩り尽くす。」

「そこなんですが、私たちは朝から王城に向かおうと思っています。逃げ込むんじゃないですよ! 兵の動員と夜間の門の通行許可を取り付けなければ、この先ジリ貧ですから。」

「できるのか?」

「たぶん、大丈夫です。他に何もなければ、今日はこれで終わりとしたいと思います。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る