彼女と母親

「結婚を前提に付き合おう!」


「あなたは馬鹿なんですか・・・?」


本当に心底思った。


「だって知り合いでもない人が嫌なんでしょ?だったら結婚して家族になろうよ」


メンヘラとかそういうレベルじゃないだろ・・・


「分かった。一旦落ち着こう」


人生で絶対出くわさないであろうシーンに俺は、その場に居たあのお母さんに頼ることにした。


「・・・・・・フ、フリキュア見なきゃ」


待て待て待て待て!逃げるな!


明らかに適当な理由(よりによってフリキュア)によって逃げられてしまった。


「さて、結婚する?それとも・・・」


「それとも?」


選択肢がまだある事に俺は確かに希望を覚えた。


「この場で泣こうか?」


「悪魔かよ・・・」


これ以上こいつに関わってはいけない、俺の心がそう訴えかけてきた。


「とりあえず今日はホテルで勘弁してくれ。支払いは俺が持つから・・・」


苦肉の策だったが、背に腹は変えられなかった。


「うーん・・・仕方ないですね」


遠慮はないのか


「・・・とりあえずこれ食べてもいいか?」


「そうでした。食べちゃいましょうか」


彼女は静かに、そして優雅にコーヒを飲んだ。


「苦っ!」


「・・・砂糖とミルクはそこの中に入ってるぞ」


そんな事もありながら俺たちは食事を終えた。




「ごめんね、ホテルまで付いてきてもらっちゃって」


「地図だけだとお前じゃ不安だからな」


「会って間もない人に散々な言いようだね・・・」


会ってまもない人に結婚を申し込む方がおかしい


「だが明日からは責任を取らないからな」


「えー、泊めてはくれな・・・」


彼女の言葉が、急に詰まった。


「・・・凛」


バス乗り場に止まった外車からそんな言葉が聞こえた。


「お母さん・・・」


「探したわよ。早く車に乗りなさい」


「・・・嫌です」


「早く乗りなさいと言ってるのが分からないの!?」


どうやら神木家では、母が圧倒的に強いらしい。


「・・・・・・」


すると彼女が俺の後ろに隠れてしまった。


「凛、その方は?」


「・・・彼氏です。結婚も考えています」


「いい加減にしなさいよ!そんなワガママは通用しないわよ」


するとだんだんと凛が縮こまり、俺の裾をしっかりと握ってしまった。


「・・・すみませんお母さん」


そんな言葉が出たのは、こんな彼女の姿が見たくなかったからだろう。


「俺と凛さんは結婚はともかく同居をしようと思います。そちらで話し合ってからでも構いませんが」


「あなたね・・・」


「でも凛さんはあまりお家には帰りたくないそうで・・・」


「君・・・」


どうしてここまで彼女を庇っているのだろうか。


しかし言葉はまだ出てくる。


「俺は凛さんの幸せを優先で考えています。俺がご不満でしたらしばらくホテルにでも泊めさせます」


「・・・好きにしなさい」


彼女の母親は苛立ちを露わにしながら車を出してしまった。


「どうして庇ってくれたの?」


何かに怯えるお前が気にくわなかった、とでも言えばいいのだろうか。


「・・・気まぐれだ」


「でも気まぐれで同居してくれる、なんて普通は言わないよ」


「・・・気まぐれだと言っているだろうが」


実際、彼女のことが好きかと聞かれれば「嫌い」と答えるだろう。


「というわけだ。ホテルに行くぞ」


「えぇ!?君の家でいいじゃんか!」


「お前はホテルの方がいいだろ?」


すると彼女は何かを察したように顔を赤くし始めた。


「や、やっぱり初夜はホテルがいいのね・・・?」


「何を寝ぼけているんだ。付き合ってもないのに、そもそも一緒にホテル行かないしな」


「え?付き合わないの?」


「・・・あそこの公園って夜も暗くなりにくかったよな・・・」


「ちょっと!?」


「冗談だ。このまま俺のマンションまで行くぞ」


「もうっ、素直じゃないなぁ」


「黙って付いてこい」


「・・・えっと」


すると彼女はいきなり歩くのをやめた。


「ふ、ふつつか者ですがよろしくお願いします・・・」


「知ってるから安心しろ」


「あっ、はい」



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