そのわっか

ガミジン

そのわっか

 赤い服の女は鍵型の刀剣を握り、鬱蒼とする冬の森のオブジェクトの中でぽつんと1人で立っている。なぜだか分からないが、女は世界的人気のハツカネズミとその仲間たちの冒険ファンタジーのゲームの主人公になってしまった。


https://pbs.twimg.com/media/Db1K2NwVQAAtvd-.jpg

著作者: Rachel.Adams


 ビデオテープからこんにちはするのが、女のいつもの日課であった。あるときはサンタ帽を被って、ブラウン管からメリークリスマスしたこともあった。あるときは世界中を旅する、赤と白の縞模様の服の男を探してはならなぬのオチを担当したこともある。


 キャラ的に、強いけれど弱点をつけば簡単に倒せる中ボスポジを任せられると思ったのだが違ったらしい。現在地点はチュートリアルが始まったばかりで、操作の説明をナレーターがしているところである。


 「良いナレーター使っているなあ。」


 スティックを前方に倒し、誘導通りに道なりに進んだ。敵が現れる。


 「ぷるぷる。ぼく、悪いモンスターじゃないよ。」


 いかにも弱そうなモンスターは寒がっている。炎の魔法を打つと喜び、アイテムを落としたのちに成仏すると説明にある。


 「ギガデスフレア!!」


 女が叫ぶように呪文を唱えたが、ふわふわと揺れながら動き回る為なかなか魔法が当たらない。なにせまだ魔法攻撃のステータスが低いので、呪文名にしてはしょぼい炎しかでてこないから的確にあてるのがなおさら難しい。


 「めんどうだ。」


 そのまま鍵型刀剣を振り下ろし、モンスターを倒してしまった。



 道中では色んなことがあった。

 他人の家のタンスを開けまくったり、壺や樽を壊しまくったりだとか。

 オカルトキャラなだけに、オブジェクトに体が半分くらい埋まってしまったりだとか。

 楽してデスルーラをしようとしたら、セーブした時点まで時間遡行をしてしまったりだとか。

 海中ステージでは思いの外、髪の毛の揺れが良い具合いで不気味になったりだとか。

 空中ステージでは無理に髪の毛が顔に引っ付いたグラになっていたので却って不自然になっていたりとか。


 そうこうしているうちにラスボスのいるステージまで辿り着いた。

 

 仲間ができた。シナリオ中にあったイベントで友情を深めあった。いざ決戦のバトルフィールドへ。


 「キズめ!癒されろッ! ヒール!!」


 ラスボスとの闘いの傷を癒した。

 

 「あー、面白かった」


 プレイヤーはゲームの電源を消したはずだった。 

 女は画面からのっそり出てきた。そして自分を操作していたプレイヤーを……。


 「本当のゲームはこれからだ。」

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