Last game
第24話 Hostage
「さあ! まずはこの画像でも見てもらおうか!」
美洋たちが何か口を開く前に、半裸の少女は恥ずかし気もなくベッドの上で動く。何をするつもりかと身構えた美洋たちだがどうやらリモコンを探してごそごそしていたらしい。
そして目的のものを見つけたのか、黒い直方体の物体を掲げると不気味な赤いボタンを押す。「えいっ」とかわいらしい声を上げているが全く似合っていない。可愛い、というよりはどこか魔性の雰囲気というのが美洋の印象だ。
「これは……!!」
「なにが……どうなってるんだ」
スクリーンに、少女アリスの姿を隠さないよういくつもの画面が開かれる。
そこに映っていたのは服装からしておそらく普通の、ごく一般の家庭の人物たち。
だが、ただ一つ、異質な点があった。
それは全員が全員、意識なく眠りに陥っていることであった。老若男女は関係ない。服から見て裕福かどうかも関係ない。
そして時間も昼、眠りに落ちるには早すぎるだろう。
「アリス! これはどういう……」
「これはどういうことか、と聞きたいところかな? それじゃあ順番に説明してあげよう! まずはついさっきの大会。参加ありがとうね、美洋君、そしてハイド君、君たちの活躍は私が一番近くで観察させてもらったよ!」
「一番近く……そうか……あいつか」
「そう! 司会進行の黒ピエロ君は私だよ! そしてだ、おそらく君たちは【皇帝】の仕組み、成長プログラムであること、そしてそれを逆手にとってお馬鹿ちゃんにしてしまったことも見させていただいた! まったく、あほらしい手だがそこを考慮できていなかったあのホワイトラビットの過失だ。笑いを抑えるのに必死だったよ。最悪手のみを打ち続けるようにしちゃうなんてね」
思い出したようにベッドの上で殻を抱えて笑うアリス。いらいらしたようにハイドが声を荒げる。
「そんな終わったことはもういいです! 今はこの人たち! なんで眠っているのかを教えなさい!」
だが、その声は届いていないかのように涼しげな表情でアリスは口を開いた。
「そしてそろそろハイドちゃんが怒り出すころかな~。うん、きっとそうだね。そして質問内容はこうだ。【なんでこの人たちは眠っているのか】かな。簡単だよ。ちょいっと私がアプリをばらまいただけさ。そろそろニュースにもなってるんじゃないかな。テレビでもつけてごらん」
その声にこたえて情報管制室の職員の一人が部屋に備え付けられているテレビの電源を付ける。
そこには……
『緊急ニュースです! 現在首都圏を中心に意識不明となる人が続出と増えています! 原因は不明であり、依然として回復の兆しは見られません。専門家などによりますと熱中症などの疑いもあるということで……』
その後、いくつチャンネルを変えてもどこも似たようなニュースであった。そしていずれも共通する内容は
意識不明者が分っているだけでも数千人規模でいること。
その原因が全くわからないこと。
意識不明者の共通点もまったくわからず原因の解明にも手間がかかりそうだということ。
「全く、私の作品を熱中症扱いするなんて失礼な話だよね」
「作品……?」
その言葉に美洋が引っかかる。だが、おそらく音声はアリスに届いていないのだろう。アリスは自分のテンポで話し続ける
「私の作品『不思議の国へ』。これが作るのが楽しくてね。脱獄した後も君たちにコンタクトを取るのが送れた理由でもあるんだが……」
「脱獄ってそんなに簡単にできるの……」
美洋の隣でハイドが首をかしげるがアリスの続きに皆が耳を澄ませる。
「パソコン携帯どんな機種も対応させたアプリでね。RPG方式で進んでいくんだが……おっと、これは今関係ないか。もちろんストーリーも素晴らしいものにできたから君たちにもいつかやってほしい。そしてだ。もう一つ趣向を凝らした部分があってね。このアプリを開くと特定の時間に意識を失うように刷り込まれる。サブリミナル効果に催眠術、いや~ほかにもいろいろと突っ込んだものだけど最近のコンピューターはすごいね。低周波振動もきっちり伝えてくれる」
「なんということを……」
職員たちもアリスのわけのわからない行動にある者は呆れ、ある者は驚き、ある者は怒る。
「もちろん、それだといろいろな人にアプリをとどけることができないからね、そのアプリをダウンロードした人が使ったLANを経由した人にももれなくプレゼントだ」
その言葉に情報管制室に激震が走る。こいつは本当に何をやっているのか、という気持ちでみんなが一つになろうとしている。
アリスがやったのはアプリにコンピューターウイルスを乗せるというもの、そしてそれを会社や家のLANなどを経由して知人友人上司家族に関係なくウイルスを押し付けるというもの。
「あ。もちろん宣伝も頑張らせてもらったよ! 一日五回。ちょこっとテレビ局をハッキングさせてもらってCMを流させてもらったよっと……もう事前説明は充分だろう、本題に入らせておくれ」
そこでごろごろと転がっていたアリスが薄いタオルケットにくるまったまま立ち上がる。
「戦争をしよ! そして今度は負けない。私の、赤の女王としての力で今度こそ君を屈服させて見せよう」
その顔は妖艶で、そして挑発的な笑みであった。
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