第22話 Final game
『おおっとお! またしても【皇帝】が駒を取って~! あああ! ついに決着です! 決勝に進んだのは【皇帝】です!』
美洋が、皇帝を倒すと宣言して二時間後。
「美洋君、これはどういうことかね……」
「計画通りです。あとはハイドが決勝でやつと戦えば終わりです」
トーナメント形式で行われることになった最終競技。一回戦を悠々と勝利を収めた美洋は第二回戦でついにプログラム『皇帝』は闘ったのであった。
【皇帝】を倒すと宣言した美洋。情報管制室の職員たちは皆、美洋が勝ってくれるものと疑っていなかった。 当然だろう。
だが、結果は│
しかも接戦だったわけではない。明らかにわざと負けているのだ。第一回戦と比べるとその差は一目瞭然であった。
三手に一回は必ずミスをするなど序の口。最終的にはルールにはない動きを駒にさせたとして失格である。敵の進軍する先に問ってくださいと言わんばかりの自軍の動かし方を繰り返せば負けるというものだ。
第一回戦が圧倒的だっただけに観客も、そして後ろで見守っていた職員たちも困惑するのであった。
だが、時は止まらない。別ブロックで勝ち抜いてきたハイドも決勝戦へと駒を進めてきた。
始まるAI対決。ハイドの思考に全ての結果は委ねられるのであった。
〇〇〇
「3-9-H。フロック進め!!」
「6-9-H。ウォールで受け止めよ」
「3-7-B。バタフライで上空から」
「と、っみせかかけて地面からもきますね? 7-7-G。ドラゴン」
十秒に平均四回のやり取り。リズムよく進んでいくその盤面の勝負は閲覧者にも分かるように進んでいく。
このゲームは将棋やチェスのように敵の最重要の駒を倒すべく進んでいく三回勝負の闘いだ。。
ただし、将棋などとは違うところが幾つかある。
一つ目にこれが立体の、3次元での駒の取り合いであると言うこと。いずれの駒も一つの平面上にあるのではなく九×九×九のキューブ状のステージを移動している。
二つ目に持ち時間が短いこと。プログラムだから思考速度も速い、と言う理論なのか、それともその難しさを知ってやっているのか、五秒以内に次の手を打たないと負けてしまう。(もっとも五秒以内に動けなかったということは駒を動かすプログラムが負けを認めたということなので支障はない)
そして三つ目、駒の数が多い。その数自軍だけで四十種七十個。もちろんこれよりも難解なボードゲームや将棋もあるが一般的なチェスや将棋に比べたらはるかに複雑であろう。
これらの違いを教えられ、理解した直後の二時間という訳がわからないほどの短い作業期間で必要な情報を打ち込み、敵の親玉である駒を取るべく動くようにせねばならない。
だが、実際問題その難易度は凄まじいものだ。あわせて九の三乗もあるマス目(というか空間)を動き回る駒を監視し調整し、対処するのは並大抵の……どころか本当に世界の頂点でもないと難しい。
まあ、今回は【皇帝】とハイド以外の全員が同じ条件であったため全員四苦八苦しながらも何とか動くプログラムを作ったのだ。
だからこそキャラクター達は簡単な作戦の動きしかせず観客から見ても目的が分かる程度に動いてくれていたので盛り上がるのだ。
だが、先程も言ったとおりそれはハイドと【皇帝】以外の話だ。
ハイドは最初から、本当にどこまで先を読んで打っているのか分からないほどの戦略性を見せつけ、観客を驚かすこと数十回。
一方で【皇帝】のほうも最初こそ他の参加者と同レベルの作戦でしかなく観客も普通に観戦していたのだが事態が動いたのは一回戦の後半からだった。
く
動きがあったのは一試合目の六十七手目。一試合目は他の選手達の試合と同じように泥沼な戦いがくりひろげられていたのだが、その時がきた瞬間にがらっと皇帝の駒のうごかしかたが瞬く間に変わり、次々と敵の駒を仕留めていくのだ。
その作戦全ての内容が分からなくとも観客の目にはどれだけ【皇帝】が強いのかはっきりとしめされたのであった。
「我、ルール、知った。蹂躙を開始する」
そして二回戦、皇帝が対決したのは美洋であった。
〇〇〇
そして、場所は再びリーシャとピノキオのところへ。
みちを阻むロボットを端から潰しつつ二人は最深部を目指していた。
大の大人が三人ほど歩けるスペースに前衛でピノキオ。後衛でリーシャという布陣だ。
僅かな電灯が照らすその暗がりを恐れることなく突き進む。
「………リーシャ。入り口が見えました」
「オーケー。扉の種類は?」
「鋼鉄製と思われます。私が破壊するので破片に注意を」
それだけ告げるとピノキオは扉に駆け寄る。途中通路の左右から矢が飛び出てきたがその程度ではピノキオの装甲は弾けない。
そして、ピノキオが扉の前で構え、次の瞬間跡形もなく扉が消し飛ぶ。
「わわっ!? なんだ!! 誰だ!!」
中から聞こえてきたのは男の驚いたような声であった。
「動くな! 国家情報管制室だ! 大人しく投降せよ! 貴官には外患誘致罪の容疑がかかっている!」
ピノキオに続き壊れた扉から侵入したリーシャは腰に差していたピストルを構え、脅しをかける。
二人の視界に移ったのは巨大なスクリーンに映されたハイドと皇帝の姿。そしてそれを見守る一人の男性であった。
座っていた椅子ごと振り返りピノキオ達の顔を見る。
「僕が外患誘致罪の? 容疑者に? おかしいなあ……。うん? よくよく見れば君はピノキオ君! それにその見張り役のリーシャ君! あれ? さっきまで入口にいなかったっけ?」
意気揚々と、元気そうに話しかけてきたのは中年の男であった。リーシャが構えるピストルに怯える様子は微塵もない。
「しかし残念だな~。外患誘致罪なんて適応されたら僕は死罪になってしまうじゃないか。僕はまだまだこの【皇帝】を成長させて……
そう! そして! 世界を掴まねばならないんだ! あいつよりも先に! あの方のために!」
「はい、言質も取れたと……」
男が自白でもするかのように話した内容を受けてリーシャは引き金にかける人差し指の力を強める。ピノキオもまた隣ですぐに駆け出せるように準備している。
が、
「いいのかい? 私を殺してしまっては皇帝はを止めることなど本当にできなくなるぞ」
「どういうこと……」
人差し指には力を入れたまま油断せずにリーシャは質問をする。
「簡単なことだ! 【皇帝】は知識の吸収が一番の優先事項におかれている。ロボット三原則も適応などしていない! 何が言いたいかもう分かるだろう! ワタシの作ったプログラム、最高傑作【皇帝】はおのが好奇心を満たすために全ての世界をむさぼり食うのだ! アリスでさえ! あのトランプ兵でさえ勝てなかった水城美洋を、本人ではなく彼が作り出したプログラムだ! 止めることなど不可能!! いいか! いいか! ワタシが! この私が超えたのだ! あの天才水城真希奈の弟を! そしてこれで……これであいつを見返せる!!!」
目の色に狂気をはらませながらべらべらと喋り続ける男。ピノキオにハンドサインを送り殺すのではなく、生かして捕らえるように指示を出す。
「あなた如きが? 美洋さんを超える? 笑わせないで下さい」
注意を逸らすために、そして本心で思ったことをリーシャは告げる。彼女の予想通り男は寄生混じりに怒鳴り込む。
「今なんていった!! 結果を見ろよ! 美洋は僕の【皇帝】の前に負けたじゃないか!」
「いえ、ところで画面を見なくてもいいのですか? ハイドちゃんとの勝負がつきそうですよ」
「なに! っ!!! な! なんなのだ! あり得ないあり得ないあり得ない!!!」
勝負がつこうとしていた。
リーシャとピノキオは知らないがハイドと皇帝の盤面の戦いが始まってまだ数分。まさしく始まった瞬間に二人は男の部屋に侵入してきたのだ。
そしてその結果は……ハイドの圧勝であった。
「そ、そんな……僕の皇帝が……」
「だれだか知りませんが逮捕します」
リーシャはカチャリと手錠をかける
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