タッグ&バトルロワイヤル
「さて、テイカーボウルとやらに参加したけれどもまさかジキルと離れ離れになるとは思わなかったよ」
おおよそ四十人程のプレイヤーからなるバトルロワイヤル、それなりの賞金とこのゲームをプレイしているプレイヤーなら喉から手が出る程のアイテムが配布されるらしいそれ、残念ながら美洋には興味の欠片もなかった。とりあえずジキルと出会いこの檻の中で白兎を叩くという目的の為にチャットを開こうとするができない。
「一応、共闘や外部との連絡ができないようにしてるわけか……まぁそれならそれで現実世界のジキルに座標を合わせてもらえばいいか」
ジキルは端末に直接自分を繋いでプレイヤーとして行動しながら、リアル世界でも平然と行動している。リアル世界のジキルが美洋の端末に接続し、美洋をナビしてくれる。
「成程、分かり易いな」
美洋の眼にはジキルがいるポイントが大きな矢印として見えていた。さらに言えば、今何人のプレイヤーがいて何人やられたかという情報も自動的に入って来る。
そして、その情報に引っ掛からない人物。
それが今、美洋の前に立ちほほ笑んでいた。
「アンタが白兎か」
真っ白なタキシードを着た男は笑いながら、美洋に背を向けた。そして逃げる。さすがに美洋もこの行動には理解できず「まて!」と自然に言い追いかける。ジキルに出されているポイントから外れない程度には考えて追いかけていたが、他のプレイヤーの姿が見えた。臨戦態勢に入ったプレイヤーだったが、白兎はトランプのカードを投げると即座にそのプレイヤーを瞬殺してみせた。
それだけの能力がありながら美洋と戦わない理由……
「なんらかの時間稼ぎか」
であれば美洋は白兎を追う事を止め、ジキルとの合流を先決した方が効率がいい。チート使いだらけのこのテイカーボウル参加者を瞬殺する白兎もまたそれを越えるチーターなのか、あるいは美洋やジキル達のようなそもそものプログラム改竄なのかは分からないが、美洋にはとっておきを残していた。
しかし、白兎は最初からここを美洋とジキルを炙りだす為のねずみ取にするつもりだったのか、あるいは決闘のリングとして使いたかったのか、他のプレイヤーを信じられない速度で倒していく。既にもうプレイヤー数は一桁を表示していた。
そして、美洋には予想外の出来事が起きる。上空にカウントダウンが始まっていた。残り二十分。
そして、一番敵プレイヤーを倒しているのは当然白兎。このまま白兎の逃げ切りでダントツ優勝となる。誰もが白兎が逃げるだなんて思ってはいないだろう。今尚プレイヤーの数が減らされる。がしかし、美洋は自分とジキルが残った時点で白兎は逃げの一手を取るだろう。恐らく、どちらが上かを魅せる為の意味で……それに美洋は冷静にジキルとの合流という手を進める。
「美洋! 3人倒したよ!」
「ゲームを楽しむのはここまでだよ。今からこれはバトルロワイヤルじゃなくて鬼ごっこだ。僕等と白兎のね。とりあえずこのゲーム内の能力で追いかけてみようか? 全ステータスを最大まで書き換え」
速度が今までの十倍程になる。そして美洋とジキルはフィールドをかける。スタミナも全く減らず、すれ違った際に見える他プレイヤーを瞬殺して見せた。もはや不正行為のバーゲンセールのようなこの空間で二人は白兎を見つけた。
「お前を捕まえたら、水城真希奈について教えてもらう」
それに白兎は綺麗なお辞儀をしてこういった。
「お茶会に遅れてしまいますので、では」
ゲーム内のステータスカンスト程度では白兎の速度には追い付けない。二人は顔を見合わせて頷くとシステムの書き換えを行う。恐らくはこの白兎というアバターは根本が違うのだろう。これで、白兎の速度に離されずとも追いつけない。
ここでリーシャのトラップを発動してくれれば、チェックメイトである。
「ジキル、リーシャに連絡、今だ」
「だめだよ美洋、リーシャと連絡が取れない、というかリーシャから黒幕を見つけたってメールが入ってる」
それは悪手だった。オフラインからの検挙は確かに速いが、今この状況を打開する手が一つ無くなったという事実。リアルと違い、オンラインの世界はその一瞬が命取りになる。
「ジキル、この状況で僕と繋がれ」
フルダイブの状況は意識を仮想世界に残してある。そこにジキルと仮想ドライブをするという事は、意識の書き換えを行う事になる。それは所謂、戻って来れなくなるという状況になる。
「美洋、それは危ないよ」
「危なくないよ。僕は仮想世界にフルダイブできないんだ。多分、これも分かっていてそう仕組まれているんだろう」
美洋はこの犯人がもうメイであるという事は理解していた。最悪、美洋は助かるようにできている、そのやさしさ。
それこそが……
「悪人の隙を見つけた。仮想ドライブ起動」
口の端を噛むとジキルは容認する。ジキルのアバターは消滅し、数値的には美洋がジキルを倒した事になる。しかし実際はジキルの処理能力に美洋の頭脳を繋いでいる。美洋の速度は白兎をはるかに超えた。
白兎の前にたどり着くと白兎は目の前で一つのアプリを見せる。それは『帽子屋さん』アプリ。一体何をしてくるのかと美洋は思ったが白兎はこう言った。
「白兎は可愛い女の子に追いかけられてこそ、君ではない! 君には応援を送ってあげよう! 一億人分のね」
ずしりと美洋の体が重くなる。ジャンクデータの大量送信。これは本来白兎を捕まえる為にリーシャが考えていた方法。それを逆手に取られている事に美洋は心底疲れを感じた。
「仮想ブースト、ブラスターデュアル!」
それにジキルが美洋の頭の中で叫ぶ。「美洋それはダメぇ!」まだ実験段階の方法美洋の脳をオーバークロック状態に持って行き、限界をさらに超えるというものだが、脳障害を起こす可能性があり、今だ使った事がなかった。
ジャンクデータまみれの美洋が再び同じ速度で白兎を追いかける。それには白兎も驚き再びアプリを起動させる。
「させるか! ジキル、こちらもあいつにお土産を残してやれ!」
ジキルはリーシャが用意していた物、さらにはWeb上に存在するありとあらゆるジャンクデータをかき集め、それを白兎に一斉送信した。それにも白兎は余裕の表情を見せ、美洋は武器スロットからこの世界最強貫通能力を誇るランスを取り出すと、白兎に突進する。明らかに動きが鈍くなった白兎を捉えるには十分な距離と火力。
(これで終わりだ!)
白兎の頭をランスが貫くそのギリギリで、ゲーム終了を示すブザーが鳴った。白兎の討伐数43人、美洋の討伐数5人。結果として白兎の優勝という形でそれは終わった。
白兎は他プレイヤーたちの拍手喝采を浴び、美洋は二位という快挙にそれも声援を向けられた。白兎は美洋にプライベートチャットを入れる。
「まぁ、よく頑張りましたよ! ご褒美、真希奈に会わせあげましょう」
「姉さんじゃなくて、姉さんの振りをした奴だろう?」
表彰式が終わり、白兎に連れられた場所には美洋がよく知る人物の姿があった。それはそれは水城真希奈にそっくりなアバターを持った水城真希奈を名乗る人物。
「大きく、強くなったね。美洋。ジキルもありがとう。私の代わりに美洋のそばにいてくれて」
美洋の心拍数が上がる。相手はジキルの事を知っている。そしてこの喋り方は完全に自分の姉を模倣したもの。
「人は生き返らない」
「死ぬ前に補完はできるよ。そしてそれはボクにはできるんだよ。白兎はジキルと同じAIが使われている。美洋とジキルは白兎に勝てたじゃないか、さすがはボクの弟だよ! ボクは君達を歓迎するよ!」
そう言って手を出す真希奈に美洋は手を差し出す。それにジキルは止めようとしたが美洋は手を繋ぐ。
それは拒絶の意味で……
「僕はサイバネティックスハンター、もし貴女が僕の姉さんだったとしても貴女は悪だ! 僕は貴女をサイバーハントする」
美洋の拒絶にたははと真希奈は笑う。そんな仕草一つ一つが本当の真希奈にそっくりでだが、美洋は動じない。
「いいよ! じゃあ次のゲームをしようか? といってもこちらの駒はもうクイーンしかいないんだよね! マッドティーパーティー最強のクイーンオブハートを倒してごらん。もし、それができたらボクのお家に招待するよ! お茶会をしよう」
そういうと白兎を連れて真希奈はログアウトする。それを止める事ができなかったのは単純に真希奈の方が技術が上だったからなのか……
「僕等も元の世界に戻ろう」
ログアウンとし目覚めた美洋を心配するように覗き込むジキル。そしてジキルの口からとんでもない事が発せられた。
「都市麻酔が発動したんだ。この街は完全に眠りについてるよ……」
街の人々は全て眠りについている。車等の機械は全てセーフティーロックがかかり、これが計画的な事であるという事は分かった。
あちこちに存在するモニターに赤いバラのマークと地図がある。そこが決戦の地なのだろう。美洋は青を呼ぶとそれに跨る。
「行こうジキル」
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