1-09 大脱走!?


僕は今、本を読んでいる。可愛い女の子が動物と触れ合う絵本だ。

……冗談じゃない。いろんな意味で。



「どうしたんですか、その本……?」


「博士がこれ読めってさ」



時間稼ぎのつもりなのかな。


「ひらがなしかないから博士たちでも読めるのにね…」


「だったら読まなくても……」


「ところがどっこい、感想を書けと言われててね」


「…………大変ですね」



ただずっとこんな調子というのも困りものだ。少なくともまともな本を読ませてもらえるように交渉しよう。


「博士、他の本はないの?」


「絵本では不満なのですか?」


「不満だよ! ほら、ジャパリパークの極秘資料とか、もっと面白いのないかな?」


「今探しているのです、今は待つのです」


「じゃあ僕も探すの手伝うよ」


「変に荒らされては困るのです、おとなしくするのです」


このフクロウめ、そんなにかばんちゃんのカレーが食べたいか。実際とてもおいしかったけど。




午後からも読書だけど、交渉の成果かまともな本だけを持ってくるようになった。それでも冊数が多い、次は減らしてもらおう、というかまずそれを交渉するべきだった。



読んでいると、本ではなくファイルが出てきた。表紙には『サンドスターとフレンズについての報告書』とあった。何かの報告書かな。ワクワクしてきた。



『報告書』……火山…サンドスター…フィルター…動物、

あるいは動物の遺物から……

フレンズ化……セルリアン…『保存と再現』………



サンドスターとフレンズについてこんなに詳しく書かれているとは。コピーした文書みたいだからどこかに研究所があったのだろうか。この島にも、探したらあるかもしれない。というか、こういうのでいいんだよこういうので。変な絵本など必要ない。こういったのを読ませてくれたらずっとここにいてもいい。


……やっぱりそれは困る。




博士たちのために要点をひらがなでまとめたら日が暮れた。だけど自分で読み返してみても平仮名だけの文は読みにくい。…どこか間違っていたりしないかな?

  



案外頭は疲れていたみたいで、横になるとすぐに眠ってしまった。……あ、日記……もう眠いや、明日でいいか……




真夜中、博士がコカムイの眠っているところに入ってきた。


「まったく、メモを渡さないとは……」


博士はコカムイが書いたファイルについてのメモを探しに来たようだ。低い本棚の上、机の上を探したけど見つからない。困り果てた博士がコカムイの方を見ると、寝ている彼の横に紙が落ちていた。何回か寝返りを打ったせいでしわがついている。


「やれやれ、しっかり管理してほしいものです……おや?」


博士の目に手帳が映った。


「そういえば、日記を書いているようでしたね」


パラパラとページをめくる。

博士の目に留まるようなことは書いてなかったはずだ。


「まあ、こんなものですかね」


博士は手帳を置き、メモを持って出て行った。



数分後、目を開き、起き上がった。


「びっくりしちゃった……起きようとした瞬間に来たんだからね……」


階段を下りて建物の外に出て、バスがあるところを目指す。


「こんな夜中にどうしたのですか、ラッキービーストまで連れて」


「あ、博士……」


運悪く見つかってしまった。でも、何とか言いくるめればバスまでたどり着くことはできそう。


「別に何でもないよ、その、私……あ、ああ……」


博士が怪訝そうな表情を浮かべる。


「……お前、本当にコカムイなのですか?」



一人称を間違えてしまった。この状態で誰かと話すのは初めてだったからかもしれない。


「ま、待って待って! その、少し寝ぼけてるだけで……」


「それにしては、はっきりした返事ですねぇ……」


「む、ぐぐぐ……」


「なぜ下りてきたのですか」


いつの間にか助手までやってきている。でも捕まったらまた面倒になりそうだし、何とか逃げおおせるしか……


「…あれ、皆さんどうしたんですか」


案外大きな声が出ていたのか、かばんちゃんとサーバルちゃんが出てきた、二人とも眠そう。


とはいえ、この状況じゃ私のやりたいようにはできない。仕方なく作戦を変えることにした。


「かばん、気を付けるのです。今の…」


「いやー、バスに落とし物しちゃってねー」


「そうですか……ボクも探すの手伝います……」



寝ぼけているからか判断力は落ちている。不幸中の幸いといったところだ。三人でバスに乗った。こっそり赤ラッキーを運転席に乗せる。



「ねえねえ、落とし物って?」


「……………」


「あの……コカムイさん…?」


「……出発していいよ」 「ワカッタヨ」



バスのエンジンがかかり、図書館から離れ始める。



「ど、どうしたんですか?」


「……! 待つのです!」 「逃がさないのです!」


「博士たち、なんで怒ってるの!?」


二人の大声にサーバルが驚いたのか大きな声を上げる。眠気は吹き飛んでしまったようだ。


「赤ラッキー、スピード上げて」 「ワカッタヨ」


「こ、コカムイさん! 一体何を………」 「か、かばんちゃ……」



二人を眠らせた。これを使うのは久しぶりだね。


「コカムイ、図書館に戻った方がいいよ」


「……あれ? ああ、こっちもいたっけ」


かばんの腕に手をかざした。


「ア、アワワ……検索中、検索中、再起動シマス………」



あとは、あのフクロウたちだ。


「かばんたちをどうするつもりですか!」


「別に何かするわけじゃないよー………というより、自分の心配した方がいいよ?」



青い炎を二人の前に出す。これは、人間の間では狐火と呼ばれているものだ。この体に入ったままでも使えるか不安だったけど、流石だ。


「うわぁ!?」 「な、なんなのですか!?」



案の定二人はとても驚いている。驚きすぎてケガしなきゃいいけどね。


博士と助手をまいた後バスは平原近くまで来た。眠っている二人をゆっくりな姿勢にさせて、手帳に日記を書いておいた。



『5日目

 

今日は本を読んだ。博士たちが絵本も読ませてきて大変だった。

でもサンドスターとフレンズについていろいろ分かった。サンドスターは火山から出てくるらしい。少し気になった。


初めて出会ったフレンズ なし』



「ふふ、ありがとね、赤ラッキー。おやすみ」


「……オヤスミ」



清々しい朝だ。小鳥が歌い、花は咲き乱れる。……じゃなくて、目を開くと、ジャパリバスの中だった。いつの間にバスに乗っていたのだろうか。


ふと窓から外を見ると図書館はそこにはなく、

一面の草原が広がっているだけだった。


「……え?」

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