第21話 希望と絶望

「アリアさん……!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げるルト。


 いや、それも仕方がないと言えるだろう。

 何故ならば、現在霊者を纏っている彼女は、術師協会の受付嬢なのだ。

 決して協会のメンバーではない。


「どしたの? ……あぁ、もしかして何で戦えるの……とかそんな感じ?」


 ルトが頷く。

 対してアリアは、


「そりゃー、あの術師協会の受付嬢だよ? なるべく戦える人間を配置するのは、当然でしょうよ。……なぁ、ルティア」


 言ってルティアの方に目をやり、


「……え? は、はい。そう思いますわ」


「……何その、戦えるの知らなかった感!? いやいや、ルティアは前から知ってるでしょ!?」


 ルティアの反応に、アリアは戦場に似合わぬ素っ頓狂な声を上げる。

 ようやく彼女らしい姿が見れたと、ルトは苦笑いを浮かべた。


「ふふっ、冗談ですわ。……ところで、アリアさんは1人ですか?」


「いんや、私だけじゃないぜ。……ほら、来たよ」


 言って、アリアが後方に視線をやる。

 ルト、ルティアもそれに倣い、後方へと目を向けると、そこに風を纏い猛スピードで接近する1人の少年の姿が目に映る。

 と同時に、そちらから溌剌とした声が聞こえてきた。


「おーーーーーーーい!! ルト! ルティアちゃん! 助けを呼んで来たぜーー!!」


「アロン!」


「アロンさん!」


 見知った少年の姿に、ルトとルティアは思わず歓喜の声を上げる。

 しかしそれで終わりではなかった。


 アロンのさらに後方に米粒のように小さな黒い点が大量に現れたのだ。


 声を上げるそれらは、時間の経過ごとに徐々に大きくなっていき、遂には人影を作り出すと、一部の集団がゴブリンなどの大量の魔物へと、明らかに纏う雰囲気の違う残りの集団が、キング達の元へと向かい、攻撃を開始した。


 洗練された動き、集団の息の合った連携。


 ──間違いなく、学園の生徒が進路先として強く望む、術師団数団であった。


 と、ここでアロンがルト達の元へたどり着いた。

 そして、ゼーゼーと荒い息を吐きながら、柔らかい表情を浮かべるアリアへと苦言を呈する。


「……ちょっと、アリアさん早すぎませんか? 俺、魔術使って全力で向かったのに全然追いつけなかったんですけど!」


「ぬっふっふ! 鍛錬が足りない証拠だぞ! もっと技を磨く事だな!」


 豊満な胸を逸らし、得意げに笑うアリア。

 そんな彼女に、


「やってやりますよ! いつか追い抜いてみせますからね!」


 アロンは力強く宣言をした。

 そして一拍開け、話を続ける。


「……と、そろそろ俺も加勢しなきゃな。 ……んじゃ、足手まといにならない程度に周りの魔物をやってくるわ。2人は充分に休んで、余力があったら手伝ってくれよな!」


 言って、再び風を纏うと、ゴブリンの集団へと突撃していく。

 次いで、それを見送ったアリアが、グッと大きく伸びをした。


「さて……そろそろ私も行きますかね。……今の所順調そうだけど、何があるかわからないし」


 言葉の後、キング達の方へ視線を向ける。

 キング全員の身体に複数の傷がある事からも、明らかに優勢であった。


 と、ここで思い出したかのように、ルティアはハッとすると、


「そうでしたわ! アリアさん。キング全員があの不可解な力を使ってきますわ! どうかお気をつけてください!」


「……あーあれね。りょーかい。んじゃその事はネロ越しに伝えとくから……まぁ、あとは任せといてよ」


 ルティアの発言に、あいも変わらず威厳と落ち着きを加えた声でそう返答すると、ゆったりとした仕草でキング達の方へと向かった。


 そこからは圧巻であった。


 術師団、アロン、アリアによりみるみる討伐されてゆく魔物達。

 ものの10分そこらで、キング以外の魔物の討伐は概ね完了した。


「…………凄い」


 駆けよってきたルティアが唱えた、天癒の光を浴びながら、ルトは半ば呆然と口を開く。

 ルティアも、ルト同様戦況を見届けながら、ウンと頷いた。


 キングの方も順調に討伐が進んでいた。

 術師団のメンバーが攻撃を与え、キングが不審な動きをすれば、アリアが強力な一撃をぶつけ、強制的に止める。


 この安定した攻撃のおかげか、あの不可思議な技は遂に一度も放たれることはない。


 また回復を終えたルティアがキング討伐に、ルトが残った魔物の討伐に加わったことで戦況は更にこちら側に傾き、遂にオークキングに始まり、ゴブリンキング、オーガキングの順にその巨体を地に倒した。


 動かない。……術師団側の勝利が確定した。

 点在する術師団の面々が勝利の雄叫びを上げる。


 その声に、誰一人欠ける事なく終了した戦闘に、ルトはふーと安堵の息を吐いた。


「……ルトさん!」


 ルティアが笑みを浮かべ、駆け寄る。


「何とか……終わったね」


 ルトは、安心しきった柔らかい笑みを作ると、周囲を見回す。


 数々の術師団がそれぞれで喜び合い、同時に次に向けた話をしていた。


 何でも別の箇所でもキングが発生しており、そちらの方が討伐難易度が高いらしい。

 だが、現在術師協会のメンバーや、術師団が戦闘を行なっており、恐らくは助けは必要ないとの事だ。


 しかし、一応向かった方が良いのか、いやそれよりも街に戻り警護した方が良いのではないかと各術師団間で、話し合いが行なわれているのだ。


 ──そう。この時の彼らは、『次』を見ていた。


 ここでの戦闘はもう終わり、別の所に援軍として向かおうじゃないかと、街の警護をしようじゃないかと、先の事を考えていた。


 ──キングを倒せば終わりだと、誰もが漠然と思っていた……思ってしまっていたのだ。だからこそ反応が遅れた。


 と、ここで。


 アリアが何気なく空に目をやったかと思うと、突然カッと目を見開いた。


「…………!? 全力で身を守れぇぇぇ!」


 そして、持てる限りの大声を響かせる。

 と同時に、ルティアは半ば反射的に、詠唱を口にする。


「──ッ! 天護ヘクトッ!」


 瞬間、一帯を覆うように薄い膜が張られ──そこへ、とてつもない衝撃がぶつかった。


 ほんの数秒だけ耐え、薄く張った影響で脆くなってしまっていた天護が音を立てて、弾ける。

 同時に、多少威力の抑えられた衝撃が、そこにいた戦士たちへと直撃した。


 攻撃の余波か、辺り一帯に黒い煙が広がる。


 そして、遂に立つものは存在せず、全員が地に身を倒していた──2人の少年少女を除いて。


「ハァハァ……」


 膝をつき、肩で息をするルティア。

 天護の中心、発現地であり、他よりも分厚い光に守られていたからか、何とかダメージを抑えることができた。


 しかし、霊者を纏った上に、天護を使ったのにもかかわらず、その身には多少の傷が見て取れた。


「ルティアさん大丈夫!?」


 ルティアに守られる形となってしまった無傷に近いルトが、彼女の身を案じ声を上げる。

 対し、ルティアは、


「はい。問題ありませんわ。……それよりも──」


 言って、空へと目をやると、浮かぶソレを目にし、


「──中々厄介な相手が現れたようですわ」


 小さな口でポツリと呟くと、たらりと汗を垂らした。


 そんなルティアの姿を目に収め、強張った表情のまま、ルトは空へと目をやると、


「…………え。そ、そんな──」


 言ってグッと目を見開いた。その表情に、恐怖と絶望の色を浮かべながら。


 そんな2人の視線の先で、ソレは尚も悠然とした態度で浮遊していた。


 まるで人間を思わせる体躯。

 しかし、全身が黒く染まっている為か、ソレが人間ではない事をありありと感じさせる。

 加えて、人間には存在し得ない、2本の大きなツノに、蝙蝠の様な角ばった翅。


 ──魔物としても、明らかに異様で強大な力を持つソレ。

 ルトはソレに対し、


「何で……デーモンが──ッ!」


 と悲鳴に近い声を上げる。


 そんなルトの視線の先で、最上級ランクAランクの魔物デーモンは、紅の瞳を妖しく輝かせると、どこか不敵に笑った。



--------------------


いつもありがとうございます。福寿草真です。


本来ならば、こう言った形で報告する事は無いのですが、作品を楽しんで下さっている方にはどうしても伝えなくてはならない内容の為、止むを得ずこの場にて伝えさせていただきます。


今作品の15話ルティアの提案と16話食堂にての間に実はもう1話あったのですが、私のミスで抜かしてしまっていました。

その為、読者様の中には違和感を感じた方もいらっしゃるかもしれません。

申し訳ございませんでした。


現在、15話16話の間に新たにルトvsルティアの話を投稿しております。

そこでお手数ですが、違和感を感じた読者様にはルトvsルティアの話を読み補完して頂きたく思います。


こちらの不手際でありながら、ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る