第16話ケルベロスの末裔

堅く閉ざされた部屋の中で己の番号を呼ばれるのを待てど暮らせど一向に呼ばれる気配はなく、己の名もとうに忘れてしまったが、胸に下げたチタンプレートには冥の一字が刻まれていた。冥府に住まうというケルベロスの三つの頭のうち、いずれの頭がふたつ目の頭に恋心を抱き、もうひとつを蛇蝎の如く憎んだのかということに思いを馳せれど、いずれも共食いの憂き目に遭って尾すらも残らぬならば、せめてその骨ぐらいは拾ってやらねばかわいそうだと愛犬の末期を思い出す。あるいは彼もまたケルベロスの裔となって冥界をうろついているのかもしれない。やがてほの暗い闇の底で再会した暁には、三つの頭をいずれとも愛でて二度とは離すまい。


第五十五回Twitter300字SS お題「あう」

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