第10話 9
次の日、放課後の夜、学校の最寄りから三駅離れた、大きい駅で彼と待ち合わせをした。私は家で着替えたので私服だったが、彼は制服のままだった。
「ごめん。敷田さん。遅れた」
「大丈夫。じゃ、行こう」
初めてのデートは私から誘った。行き先は映画館だった。二つしかシアターのない、いつもの名画座だった。
「なんで映画?」
「私たち映画部じゃん。藤村くんが死んじゃう前に一度くらい活動しないと」
「そういえばそうだね」
「忘れてたの?」
「忘れてないよ。忘れてない」
だから今日は、彼のやり残したことをやりに行くと言うよりは、私が彼とやり残したことをやりに行く日だ。別にワガママ、じゃないと思う……
「どんな映画?」
「決まってないよ。その日その日でやってる映画、違うから」
「敷田さんは、どんな映画好きなの」
「ラブストーリー…… ではないよ。特にないんだよね。映画は好きなんだけどね」
「そっか。僕も一緒だよ」
私たちはチケットを買って中に入った。
◇
運命のイタズラだった。絶望にも希望にもなりうる2時間だった。
洋画。耳に入ってくる言語は英語ではなかった。どうやらスペイン語らしい。
私たちに道を示すような映画だった。その先は地獄のような気がするが。
全身不随の男と、進行性の難病を患っている女性。決してラブストーリーではなく、淡々と二人で尊厳死を目指す物語。見ていて辛くすらあった。だけど目を離せなかった。それは彼も一緒だった。
シアターを出た後も、二人の間にはシアター内と変わらない沈黙が居座った。
感想を言い合うこともなく、ただ「またね」とだけ言い合い、それぞれの家路についた。彼も私も、なにも話す気にはなれなかった。
ただ、彼も私も、その映画に一種の憧れのような、何かを抱いていた。
それはきっと洗脳のようなものだろう。破滅をもたらすものだろう。
だけど、私たちは誘蛾灯の周りを回り続ける蛾のように、その映画から離れられなかった。
次の日、待ち合わせも何もしていないのに、二人は映画館の前に立っていた。
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