正義

「おうふ!」

急遽馬場と長沢が駆け込んできた。


ついさっきまで息をしていたであろう校長はまたも首をおとされていた。

「で、第一発見者が竹下さんと。」

「そういうことになりますね。」

「シタイコワイ。」

長沢の体の震えはおさまらない。


「ええと、死亡推定時刻は30分ほど前。

竹下さんが発見するほんの直前に亡くなったものと思われます。

凶器は鋭利な刃物。

見つかっていません。

おそらく即死です。」

米村が長々説明した。


「同一犯と見て、間違いはありませんね。」

竹下がそう言うと馬場は深く頷いた。


「鑑識の人員はもう前の事件にさいていまして……

私がここを捜査するのが限界なんです……」

米村が頭を下げたが、馬場と竹下がお気になさらずに、とフォローした。


すると廊下から中沢のお気楽な声が響いた。

「たっけしったさーん!

戻りましt………」


中沢はそこに転がった死体を暫く眺めた。



「また……ですか………」

「またですね。」

竹下が返すと中沢は暫く黙り込んだ。




「くっそーーーー 」

中沢はその場に泣き崩れ、激しく床を叩きつけた。


「中沢くん………?」


「人の命を守るのが警察だというのに………

うあああああああああーーーーーーー」


中沢が一人、叫び続けた。


「なんで……なんで……

もう何人が殺されてるんだよ!

警察って……なんのために……あるんだよっ!」


「中沢くん。」


「なんで……なんのために………

なんのために俺はっ、なんのために警察になったのかわからねえじゃねえかぁ!」


「中沢くん!」


竹下は中沢を怒鳴りつけた。

そして、睨んだ。


一瞬の静寂が、流れた。


「甘えたことを言うんじゃないっ!」


米村が失礼します……、と言いながら死体検分を再開した。


「もう失われてしまった人命は助けられないのです。

それを感情に任せて嘆くだけでは、警察官失格ですよ!」


中沢は血で染まったカーペットを眺めた。


「過去を悔やむのも、大切でしょう。

しかし、もっと大事なものをあなたは忘れています。」


「…………………以後……気を付けます………」




馬場が口を開いた。

「竹下………

お前はそう言う正義に従ってるんだな………」


竹下は仰る通りです、と答えた。


「竹下………。」


「殺された本人は悲しまない。

でもな。

遺族の中では被害者はずっと生き続けているんだよ。

ずっと悲しんでんだよ。」


竹下は彼を見つめた。


「それだけは、忘れないでほしい。」


なるほど、と答えた。



「じゃあ、捜査始めるか。」

馬場が言うと皆が呼応した。

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