七月の夏風に乗る
白野よつは
■0.夏の風はどこに吹く
「それにしても、
「そうですねぇ。私も高校野球の解説を何十年と務めさせて頂いているんですけど、こんな応援は初めてですね。だって、花岡北はもともと、バンカラ応援の高校じゃあなかったでしたっけ? ……いやあ、それにしても、すごい。これは一見の価値ありですね」
「ええ、まさしくそうなんです。なんでも、この圧巻の大応援団を結成するまでには、学校全体を巻き込んでの大論争が巻き起こったそうで。一時は今年の野球応援は取りやめになるかというところまで揉めに揉めたそうなんですよ。というのもですね――」
七月某日。
全国高等学校野球選手権大会――通称、夏の甲子園、岩手県大会の二回戦。
厳正なる組み合わせ抽選の結果、一回勝てば県営球場での第一試合、という幸運を引き当てた花岡北高校は、テレビ中継なしの
どうせなら県営球場でテレビに映りたい。午前中しか野球中継の番組枠がないので、第一試合か、もしくは、あまり映らないが第二試合でもいい。
おそらくそれは、甲子園に行きたいという夢の裏にある、もうひとつの密かな野望だ。
もちろん、テレビに映りたくて野球をするわけではないが、運悪く森山や八幡平球場での試合ばかりの抽選結果になってしまったときは、なんとなくテンションが下がる。
準決勝、決勝ともなれば、ローカルテレビ局に加えてNHKの中継も入るものの、しかしその頃には、大半の高校の夏が静かに幕を下ろしているのだ。どうせなら、映れるものは映っておきたい。とりわけ、午前中に。それはきっと、応援側も同じだろう。
試合は、七回裏の花岡北高校の攻撃。スコアは三―二で山田西高校が一点リード。打者ひとり目とあって、まだ若干、実況や解説に余裕のある放送席では、花岡北高校の応援の様子がクローズアップされ、ここぞとばかりにアナウンサーが解説をはじめた。
それにふんふんと聞き入る解説の鬼嶋。聞き終えると鬼嶋は、
「そんなことがあったんですねぇ。いやあ、そんなエピソードを聞くと、応援がまた違ったものに聞こえてくるようです。だから高校野球って素晴らしいんですよ」
花岡北高校の応援に聞き入ることにしたのか、静かに閉口した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます