第49話 本家の賑わい
…竹之高地で王子が楽しく過ごすうちに、いつの間にか夏休みも半ばを過ぎてお盆の時期がやって来た。
森緒本家も清吉叔父の兄弟を始め、親戚達が続々と帰省のため訪れる日々である。
祖母キノと祖父長太郎夫婦の子供は、清吉叔父を長兄に五男二女の7人で、サダジはその三男。
兄弟の中では上に3人、下に3人というセンター位置である。
しかし実は子供の時には遠く京都に丁推奉公に出された経験をしている。
「王子のお父さんは来るかな?」
…晩御飯の後でお茶を飲みながらミツイが王子に言った。
「絶対に来るよ!だって今年新車を買ったもの!」
キッパリと王子は答えたのであった。
…翌日、親戚が2家族帰省して来て、俄然本家は賑やかになり、サダジ兄弟の叔父さんや叔母さん、イトコなどと王子は顔を合わせることとなる。
普段はあまり顔を合わせることが無いので、帰省でやって来た親戚達は王子を見て不思議そうに言った。
「…あなたは確か松戸の…サダジさんの子供よね?」
「はい、そうです」
王子が応えると、
「へぇ~っ !? あなた新潟の言葉も標準語も普通に話せるのね!…私もう最初こっちの方の子供かと思った!…すごいわ!器用なのねぇ…」
と言われて王子はちょっと戸惑いを感じたのであった。
(…それって、器用!なのか?)
するとミツイが笑いながら言った。
「王子は昔っから竹之高地の子供じゃないの!器用って訳じゃないでしょ!」
「そうかぁ…そうだよね!なぁんだ別にボクは器用じゃ無いのかぁ!」
王子はそう言ってみんなで笑ったのであった。
…そして翌朝。
ついにサダジとフミが新車(マツダボンゴ1box 8人乗り)でやって来た。
例によって昨夜に北松戸を出発して一晩かけて走って来たのである。
「…だけど楽々だったよ~!やっぱり車が前と違うし、ここまで歩かずに来られるし、以前のことを思うともう全然楽!」
車を降りたフミは居間でお茶と枝豆を頂きながら明るい顔で言った。
「前は着いたときにもうぐったりして部屋で倒れちゃってたよね!」
王子がそう言うとみんなで頷いたのであった。
…庭では長兵衛一家と親戚のみんなが、新車ボンゴの内外を珍しげにチェックしていた。
「3列シートか!こりゃ大勢乗れて良いねぇ!」
「窓も大きくて見晴らしも良さそう!」
「スライドドアが乗るときに楽だね!」
と、なかなか評判も良いようである。
気を良くしたサダジは例によって叫んだ。
「よ~し、明日はみんなで車に乗って山巡りに出掛けるぞ~っ!」
「やった~!」
王子を始め本家親戚の人達は大いに盛り上がったのであった。
…という訳で森緒本家は大勢の身内たちで賑わい、その日の晩はとても華やかな宴食であった。
とは言っても、竹之高地の食べ物は野菜や山菜料理が中心なので、肉や洋風カタカナ料理などは全く無いのだ。
どっちにしたって叔父さんら大人達は酒やビールを飲みつつの時事世間話に盛り上がり、子供達は御飯は適当にササッと済ませて、その後の茹で上げトウモロコシやラズベリー(現地自生物)、スイカ、それと枝豆(以上は扱いとしてはオヤツである)の方が楽しみなのだ。
しかし、その裏でミツイやヤイ叔母ら本家の女性陣はくるくる大忙しで大変なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます