第47話 戦慄!…Mとの遭遇

 東勝さんと王子とトシコは並んで池の端に立った。

 パン!パン!

 …東勝さんが2回手を叩くと、池の水面がざわつき、水の中の錦鯉たちが姿を現しながら3人の方へ集まって来た。

「おおっ!凄~い!」

 赤白橙色に黄金色など様々な鯉たちがぐわ~っ ! と近寄って来る姿は壮観で、王子は驚喜の声を上げた。

「鯉どうしが押し合いへし合いしないように、餌はあちこちバラけさせて投げるんだ!」

 東勝さんはそう言って、王子に餌袋を手渡した。

 餌は乾燥サナギで、王子は指示通り池の近くに遠くに右に左にそれを投げた。

 大きな口を開けた鯉が餌を追うのが面白く、夢中でサナギを投げるうちに餌袋は空になった。

「東勝さ…!」

 餌が無くなったよ、と言おうとした王子はしかし途中で言葉を飲み込んだ。

「下がって!」

 東勝さんは王子とトシコに背中を向けたまま、右手で2人を制しつつ池の土手に立っていた。

「マムシだ!」

 と叫んだ東勝さんの前には、一匹の蛇が鎌首を上げて威嚇の姿勢をとっていた。

 王子とトシコの身体にも戦慄が走り、恐怖感が沸き上がってくる。

 東勝さんはしばらくの間、マムシとにらめっこを続けていたが、

「王子!リヤカーに空の一升瓶があるから取って来て!」

「トシコは木の枝を30センチくらい折って持って来て!」

 と指示を出した。

「分かった!」

 2人は素早く動いて指示されたものを取りに走った。

 その間も東勝さんはマムシから目を離さず、少しして戻って来た2人から一升瓶と木の枝を後ろ手に受け取った。

 どうするのか?と不安げに見つめる2人に聞かせるように東勝さんはニヤリとほくそ笑みながら言った。

「よ~し、それではマムシを捕まえるよ!」

 そして一瞬、マムシから視線を外した。

 するとマムシは頭をくるりと反転させ、Uターン態勢で逃走行動に入ったのである!

 しかし、これこそ東勝さんの予想通りの展開であった。

 東勝さんは素早くマムシに視線を戻すと、右足を伸ばして毒蛇の頭を潰さぬ程度に踏んづけた。

 次に木の枝でマムシの首根っこを素早く押さえる。

 ちなみに木の枝は先が二股になっている (Y字状) ものだ。

 マムシは頭が三角形でエラが張った形になっているので、首根をY字の枝で押さえられると、エラが引っ掛かって後ろに下がれないのだ。

 最後に一升瓶の口を毒蛇の頭に被せると同時に足を離すと、マムシは自動的にするすると前進して瓶の中に入ってしまったのである。

 後は瓶を立て、枝を2つ折りにして瓶の口に差せば生け捕り完了である。

「はいっ!マムシの捕獲、一丁上がりっ !! 」

 得意げに東勝さんが言った。

「やった~っ !! 」

 王子もトシコもその鮮やかな捕獲の腕前に大喜びである。

 …こうして、普段は静かな朝の山中の大池に、今日は3人の陽気な歓声が響いたのであった。



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