第34話 家族旅行は平和に…?
…電車を降りて改札口を抜け外に出ると、土産物屋が並ぶ駅前ロータリーには海からの風がそよ吹き、どことなく南国リゾートの香りが漂う観光都市という感じがしてみんなの顔もほころぶ中、フミがサダジに訊いた。
「ところで今日の宿はどこなの?」
するとサダジはサラッと答えた。
「そんなのこの街には旅館がたくさん有るからどうにでもなるだろ!」
…要するにノープランな訳で、お姉ちゃん達の顔が一斉に不安感で曇った。
「ゴールデンウィークに観光地の宿がどうにでもなる訳無いでしょっ!今すぐ旅館を確保してちょうだい!」
フミがドカンと叫び、サダジは慌てて駅前の観光案内所にぴゅ~っと走って行った。
…しばらくするとそこから帰ってきて、
「何か、一軒しか今日は空室が無いらしいんだけど…そこで良い?」
と言ったが、すかさずフミが、
「そこしか無いなら早くそこを取れっ!」
と伊東に着いた冒頭から爆発して、楽しい慰安旅行は波乱含みでスタートしたのであった。
だがしかし今日の宿がとりあえず確保出来たので、みんなはホッとした。
…駅近くの商店街の食堂でお昼御飯を頂いた後、サダジは張り切って、
「よ~し、観光に行くぞっ!」
と言って盛り上がったが、フミは、
「私は早めに宿に入って楽々したいよ」
と言い、お姉ちゃん達は、
「街歩きをして商店街や土産品店を見たり、港の干物屋さんなんかも覗いてみたいです!」
と言うのであった。
こうなると「みんなの慰安旅行」ということで来ている以上、女性陣の希望に沿うしかない。…それでもサダジは、
「船で初島に渡るってのはどうだ?」
などと言ってみたが、
「私ちょっと舟は苦い思い出が…!」
と、タマイに言われて諦めたのであった。
…結局、夕方早めに旅館に入り、一家は部屋で寛いだ。
宿は純和風の造りで、女将さんの話では今日は満室のはずだったのが、今朝になってドタキャンが出てちょうど広い部屋が1つ空いたとのこと、幸運にも王子達は結果的に伊東まで来て路頭に迷うのを免れたのであった。
やれやれと安堵してみんなで温泉に浸かり、その後フミとサダジは部屋に戻って按摩さんを呼んで身体をほぐしてもらい、王子とお姉ちゃん達は遊技室でピンポンをやった。
…夕食は部屋であふれんばかりの海の幸。
グラスにお姉ちゃん達からビールを注いでもらってサダジはゴキゲン。みんなで乾杯して美味しいご馳走を頂き、幸せな宴であった。
…食事が終わると膳が片付けられ、部屋に布団が敷かれた。
部屋の窓を少し開けて布団に横になると、海からの波の音が聞こえた。
…翌日は駅前から観光バスに乗り、伊豆の山々を巡るスカイラインコース。
眼下に青い海、間近に望む霊峰富士…天気も良く実に素晴らしいパノラマである。
…高原のレストランで昼食。山の土産品店で買い物。ロープウェイで上がる山頂の展望台。…
充分に観光を楽しんで、バスは山を下って再び伊東の駅前に戻って来たのであった。
…後はもう電車に乗って家に帰るだけとなった。
楽しい時間は瞬く間に過ぎる。
王子はちょっと寂しい気持ちだったが、フミは内心ホッとしていた。
「これで無事に旅行が終わるわね…!」
…ところが!
何と、実はこの後、森緒家史上最悪の事件が起きてしまうのである。
しかしもちろんこの時は誰もそんな事を知る由も無かった…。
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