仮面

水蛭子

仮面

「お前っていつも笑顔だよなw」

「そうかな?」

知ってるよ。だって私は生き抜くため笑顔を貼り付けているから

「幸せそうだな。悩みとかないんだろ?」

「まあね。幸せだよ」

私のそっけない態度に会話は打ち切られる。

笑顔でいれば心の奥まで踏み込まれることはない。あなたに悩みを話したところでなんになる?

一人で抱え込むのが正解だよ。

あなたたちは聞き出した悩みを面白半分で吹聴するでしょう。それが耐えられない。信じられるのは自分だけ・・・

今日も愛想笑いで1日を流す。こんな学校じゃあ時間が過ぎるのを待つだけ


家に帰ると

「ちょっとアンタ勉強どうなの?」

「大丈夫だよ。お母さん」

精一杯のつくり笑顔を向ける。それだけで母は安心した様子になる。

私は一人っ子だ。父とはもう何年も会ってない。

最初は辛かった。でもそれを友人に相談したとき片親であることをイジられクラス中に知れ渡った。私は信じてたから話したのに!

人間なんて信用できない。だから私は笑顔で騙す。私の最大の武器は笑顔。これさえあれば、バカどもは勝手によく解釈してくれる。


今日も憂鬱な朝が来る。

自室を出たら笑顔でいなければならない。

ほんの少し私が真顔でいられる時間。

学校・・・行きたくないなあ。


学校では特別なことは何もなかった。

まあいつものことだね。


「お母さんただいまー」

玄関には見慣れない靴

「お客さんなの?お母さーん」

返事が無い。きっと談笑でもしているのだろう。

仕方ないなあ。つくり笑顔でいきますか!

「こんにちはー?」

つくり笑顔で客間に入った私の表情に笑顔がはりついた。父がそこにいたからだ。

「なんで?」

口をついて出たその言葉は暴力を振るっていた父への明らかな拒絶反応だった。

「おう、若葉か久しぶりだな。」

ことばこそやさしいが威圧感を感じる。嫌な予感

「お母さんは?」

「トイレだよ。まあ座れや。久しぶりの親子の再開だ。つもる話もあるだろ?」

「無いよ」

「無いってことあるか?そんなに笑顔で」

「え?」

笑顔はとっくに消えてると思っていた。でも確かに口角に力が入っている。つくり笑顔の感覚だ

「まあいい。お前は俺の子供だ。俺の所有物と言ってもいい。俺のためにその身を捧げろ」

「アンタ、何言って・・・!」

「笑顔で怒鳴られても怖くないぞ」

なんで?笑顔が消えない?

「何しに来たの?」

笑顔を消そうとするが上がった口角が下がらない

「だから!つまりだ!お前を金に変えにきた」

わけがわからない・・・

「イヤ」

「俺の言うことが聞けないのか?」

父の拳が飛んでくる。思い出すあの頃、最低の日々。

「うふふ。アハハハハ!」

急に笑い声をあげた私に父は少したじろいだ。

その隙に私はキッチンに走り包丁を手に取った。

その切っ先は予想外にも追いかけてきた父の頸動脈を捉えたらしい。血の海

笑いが止まらない。父が動かなくなっても刺し続けた。いい気味・・・

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