祈りの夜
「死ぬのが怖いのです」
ステンドグラス越しに色づいた星明かりへと祈りを捧げながら、老いた修道女はぽつりと呟いた。
松明の灯りさえ息を潜める聖堂に、静かに伸びる一筋の影は、修道服の小さな天使の儚さと神々しさにひっそりと従う。
「今までずっとひとすじに主を信じてまいりました。今までずっと主に召されてこの世を離れるべく仕えまいりました。でも……」
震える声がか細く途絶え、星明かりと聖女とその影だけがそこにいる――ステンドグラスの下には、ただ侵してはならない静謐が広がっていた。
「私がどれだけの信念を持っていようとも、どれだけの信頼を主に置いていようとも、真実はずっとこの私に寄り添っているのです。誰にも、真実だけはずっと……」
美しい老木の枝のような聖女の指を、一筋二筋と涙が伝っては落ち、星となって散った。
夜明けとともに世界が目覚める頃には、聖堂は天使の柩になっていた。
星明かりとともに去った聖女に今なお寄りそう真実を、主が創りたもうた世界の中で知るものはないだろう。
「祈りの夜」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます