第75話 哲とサトル(下)

 彼は砕け散った惑星の残骸を眺め言葉を続ける。

残された物は虚無…… 銀河系そのものが消し去られたのだ。


『生命があるという事、それは必然的に争いを生む。

望むと望まざると…… そういう宿命なのかな 』


「誰も好きで争いはしないだろ? 」

俺はそう思う。 いや、そう思いたいのだろう。


『そうだよ。 誰も争いを望んでは居ないさ。

でもね、生きると言う事はそういう事も含むんだよ。

生きる以上は糧を必要とするだろ? 植物は? 動物は? 命を奪う事は争いと同じだ。

綺麗事では命を維持は出来無いよ。 違うかい? 』


「でも…… 」

正論過ぎて言い返す言葉が無い。


『人も、動物、植物、皆平等に命はある。

でも、その命は不平等でもあるんだよ。

奪う者、奪われる者。 そうしてこの世界は廻っているのだから。

これは生きる上で必要な行為・・宿命・・でありカルマだからね。

誰もが平等にその生の円環・・・・に囚われているのだから 』


俺は…… 言葉が出ない。

そんな俺を見詰め次の世界を発現させた

『さあ、続きを観よう 』


どれ位の時間なのだろうか? 生命が誕生し滅びるまでは。

永劫とも思える時を遡り虚空に映し出された世界。

繰りかえし……「世界」は創造され

繰りかえし……「世界」の終末を眺める


誕生と破壊と消滅と…… 終わる事無く、繰り返えされる誕生と破滅の円環・・・・・・・・

最後には哀しき終末が待っているのに、それは延々と繰り返されてゆく。


突如、場面が切り替わった?


虚空には十三柱の使徒・・・・・・達が頭を垂れている。

その先には創造の神なのだろうか? 眩しくて良く判らない。


やがて、十二柱の使徒・・・・・・は新たな世界の創造を任され、それぞれが行う。

一人残された使徒は唯一柱ただひとりの「消し去る者」、執行者エンフォーサーとなった。


創造の神に代わり、哀しき終末を執行する、唯一柱ただひとり執行者エンフォーサー


終わる事無く、繰り返される争いと世界の消去と言う名の執行……


やがて、執行者エンフォーサーの心が壊れた。

「あぐっ! くぅ…… 」

なんだ、胸が締め付けられる……


『それはそうだろう。 創造の神ですら耐えられなかった苦しみに、造られた神が耐えられる訳がないのだからね。 僕達・・が壊れるのは当然の結果だよ 』

彼は悲しげな瞳で俺を見詰めた


崩れ落ちた執行者エンフォーサーに替わり、一柱ひとりの使徒は自身の力を揮った。


『彼女もね…… 傷ついてしまった。 

その様・・・に創造されていない使徒が、あの苦しみに、痛みに耐えられる訳が無いんだよ 』

彼は悲しげな瞳で、映像に映った一柱ひとりの使徒を見詰めていた


場面が変わる。


創造の神が、一柱ひとりの使徒の願いを叶え、壊れてしまった執行者の魂を転生させる。


執行者は無垢な心をもって、彼女の見守る世界へと……託される。


『ここまでが僕達が生まれた理由と、二人に分かれた理由なんだけど、理解できたかな? 

その胸の痛み、思い出せたかな? 』

彼は覗き込むように伺う


『でもね、此れだけじゃないんだ。

これから観てもらうモノの方が重要で、君がどうするかを決めるのに必要なモノ。

言って置くけど、今まで観たモノの比じゃ無いよ。

 

 そうだねぇ~。 君の御両親も辛かった筈だよ。

そして、君の決断がこの先に待つ未来・・・・・・・・に影響する。


だから、覚悟して臨んでね。 決して後悔をしないようにね 』


「な、何を見せようって 」

まだ、胸の痛みがとれない……

締め付けられるような、鈍い痛み


『この世界の闇だよ。 そして君の過去も少し思い出して欲しいな。

でないと、あの子が可哀想だから 』


「ま…… まって! 」


『駄目だよ、 さあ、覚悟をきめてね 』

彼は俺の願いを聞かず、指を鳴らした


そして俺の意識が何処かへと飛ばされた感覚だけが残った

いったいどこへ…… 

意識がまた闇の中へ。

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