閑話 女神の片思いと、兄妹

 繰り返される終末という破滅。

創造の神わたしそれが・・・繰り返される哀しみに耐えられなくなった。


「辛い事は他にさせれば良い」と…… 

創造の神は己が手で創造することを禁じ、己が手で消し去ることを禁じた。

わたしは十三柱の使徒を創造した。

十二柱の使徒は世界の創造を、最後の使徒は唯一柱ただひとりの「消し去る者」執行者となった。

己が代わりに哀しき終末を見つめる執行者。


わたしは気付かなかった。

その想いこそが過ちだと、その気持ちが世界に終末を齎していると言う事に。


繰り返される争いと執行……。

一柱ひとりの使徒が気付く、執行者が壊れはじめるのを。

それを止めるために自身の力を揮う、傷ついた二柱ふたりは創造の神へと願った。

「彼(彼女)に救いを」


わたしが過ちに気付いた時は遅く、執行者を助ける事が出来なかった。


創造の神は一柱ひとりの使徒の想いに気付く。

そして、己が中に芽生えた想いが「慈愛」だと気付いた。

一柱ひとりの使徒の願いを叶え、壊れてしまった執行者の魂を転生させたのだ。

執行者は無垢な心をもって、彼女の見守る世界へと…… 旅立った。

十二柱の一柱ひとり木花咲耶姫このはなさくやひめと言う。


創造の神は、一柱ひとりの使徒の願いを叶え、壊れてしまった執行者の魂を転生させた。

その転生先は十二柱の一柱ひとり、木花咲耶姫が管理する・・・・宙域であった。


其処には二つの異なる文明を育んだ惑星があり、一つは地球と言い、もう一つはヘイムス・リングと呼ばれていた。

それぞれの世界は異なった文明を持ち、本来は交わる事は無い筈なのだが…… 

運命とは創造の神にすら判らぬものであった。


そして、一柱ひとりの使徒の片思いが始まるのであった。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 時は十数年前に遡る。

当時小学生であったさとる沙弥華さやかと共に、良く近くにある神社の境内で遊んでいた。

その神社は古くから富士山信仰と密接な関係をもち、木花咲耶姫このはなさくやひめが祭られていた。


霊峰富士の湧水が、音を立てて流れてゆく。

朱塗りの欄干に凭れ掛りをそれを眺めながらボーッとする。

湧水の奏でる音に飽きると、橋を渡り朱塗りの鳥居を潜り境内へと歩みを進める。


境内は樹木が生い茂り日差しを遮って涼しげな陰をつくっていた。

さとるは涼しさを与えてくれる此処が好きだった。

静謐などと言う難しい言葉は使えなかったが、此処がそういう静かで落ち着く場所だと知っていた。


何をして遊ぶでもなく、境内でノンビリとするさとる紗弥華さやか

小学生にしては大人しく座っていたり、木々を眺めたりと聊かおかしいのだが、そこは二人は兄妹であり似た雰囲気を持っていた。

宮司さんや巫女さんもそんな二人を微笑ましく見守っていた。


木々に囲まれた休憩所には簡素な屋根、机と椅子が設えてあり、日がな一日境内でボーとして居る訳ではなく、時には二人で勉強もしていた。


日中の日差しが徐々に薄れていく…… もうすぐ春も終り、新学期になろうと言う時に二人は出会った。


何時もの様にさとるは境内に来ていた。

春休みもうすぐ終わり、来週からは新学期が始まる。


 境内を流れる湧水を眺め、何時ものように境内の南西にある野外休憩所のベンチへと向かった。

少し小高い場所に作られていた事もあり、下からの眺めでは先客などが居る事は見通せない。

溶岩を削り作られた階段を登り、休憩所へと向かう。

階段を登りきって休憩所へと一歩踏み込むと、其処には美しい少女が佇んでいた。


先客が居る事を考えていなかったさとるは面食らって言葉を発する事を忘れていた。

だが、その少女はさとるを見ると優しげな笑みをみせ言葉をかける。


「こんにちは 」


突然の挨拶に、慌てて返事を返す。

「こっ、こんにちは 」

咲耶 木乃葉さくや このはとの出会であった。


その春の出会いから、さとる沙弥華さやか木乃葉このはの三人で良く遊んでいた。

木乃葉このはは宮司の姪にあたるそうで、様々な事情によりこちらに引き取られてきたとの事だった。


同じ小学校に通う同い年の少女。

小学校から中学へと進学する間も三人は仲が良かった。

仲の良い友達とのキャンプや海水浴など、大勢の友達との思い出も作る事ができた五年間、中学を卒業し二人は同じ高校へと進学する。

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