第36話 招待された?

 中央には祭壇の様な物があり、その先が出口のようで硬質な石造りの鳥居が立っていた。

光苔の発する淡い光を反射し、黒い鳥居が輝く様は幻想的だった。

通路には、等間隔で同じ様な鳥居が並び、それを潜り抜け出口へと向かう。

奥には縦横5mくらいの、中央から両開きにするタイプの扉があった。


『この部屋の先が出口だな。 出てすぐの所に待ち人がおる 』


「シロ君? 待ち人? 」


紅花べにばなが、先に扉を潜り抜け外へと歩む。

沙弥華さやかと顔を見合わせる、兄妹ふたりはその言葉に疑問を抱きながらも、扉の向こうへと進むのだった。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 時刻は15時を少し過ぎていたが、辺りはまだ明るい。

洞窟の中でオニギリを摘んだ程度なので、小腹がすいている。 

このタイミングで食事を、と告げるのは躊躇われたので、そのまま紅紅花べにばなに付いて行く事にした。


 外には、中にあった物と色違いの鳥居が並んでいた。

まるで地球にある物の様に朱塗りで、足元には石畳が敷き詰められていた。

その様相に、何故か既視感を覚えるのを不思議に感じながら、紅花べにばなを追い石畳を踏みしめ進んで行く事数分、人影が視界に入った。


 既にAR表示上に確認していたのだが、恐らくはその人? が白銀しろがね達の言う「待ち人」なのだろう。

紅花べにばながその人物と接触すると、此方を見て何かを話していたようだった。


「遊者さま。お待ちしておりました 」

そう言って一礼をしたのは、黒髪で気品ある美しい女性だった。

何処と無く見覚えがあるような? 妙な感覚に陥りそうになる。

当然、会ったことなどある筈は無いのだが。


「さっきから何だろう? 」 

不思議な感覚に戸惑いながらも、挨拶を交わす事に集中した。

遊者スキルの異世界言語・・・・・のお陰で言葉は通じる。


「私はこの国、ローベンシアを治めるマリア・S・ヤマト・ローベンス、此度はおこし頂き有り難うございます 」


驚いた事に、この国の女王陛下自らのお出迎えだった!

ただ、辺りを見回しても一人の護衛を連れていない。

その事に疑問を感じた事が伝わったのだろう。

陛下より説明された。


曰く、ここへは転移門からでなければ来ることが出来ない。

更に、王族に認められた者のみを正しき場所へ案内する、との事だった。


話しの続きは王都に戻ってからと促され、先にある転移門へと移動した。


転移門を抜けた先は、まるでビルの中にある中庭? の様な場所で本当に異世界なのか? と、疑がいたくなる。

一目見て感じたのは「伝統的な日本の様式美を取り入れた造り」と言うのが正直な感想だ。


中庭は結構な広さがあり、竹林と細長い形の石が複数置かれていた。

孟宗竹? に似た植物が植えられており、その高さは天井まで伸びている。

床には切り出したままの岩が敷き詰められ、簡素でありながら趣のあるつくりだと感じる。

天井に目を移すと吹き抜けの構造で、丁度屋根が開き始めていた!?


「お気に召しましたか? 昼は青空で、夜ともなれば星空が望めます。

雨の時などは、雨水が竹に降り注ぐ事で瑞々しい青さを引き立ててくれますし、切り出したままの荒々しい岩肌を浮き立たせてくれるのですよ 」

 

辺りをキョロキョロと見回していると、白銀しろがねに早く行けと急かされる。

そのやり取りを見て陛下が「クスッ」と笑った。

ちょっと恥ずかしい……


    ◇    ◇    ◇    ◇


 案内された部屋は特別応接室と書かれていた。

こちらの到着を待っていたのか、そこには既に人がおり陛下へと礼をとると此方へ視線をむける。


 その部屋はファンタジー小説に出てくる様な豪奢な部屋では無く、どちらかと言えば大企業の会議室のようだ。

だが、壁や天井に施された彫刻、テーブルや椅子等の設えは、腕の良い職人が手掛けたであろう事が素人目にもわかる。


「先ずはお座り下さい 」


 促され椅子へ腰掛けると、フワッと包み込まれるような座り心地に驚いた!

その様子をみて、陛下の右手に立つ年嵩の男性が

「お気に召したようで何よりです」

と笑顔で告げた。


「此方の三名を御紹介させて頂きます。

向かって右より、立法府最高議会長(立法国民議会) 

行政府最高議会長  

司法府最高議会長 」


「立法府最高議会長(立法国民議会)を勤めさせて頂いております、ロイド・アル・ヤマト・イシュタールと申します 」

背は紅花と変わらない位だろうか、栗色の髪をオールバックにしモノクルを掛け知的な印象を受ける。

歳は四十代位だろうか切れ者? と言う言葉が似合いそうな男性だ。


「行政府最高議会長を勤めております。ファルド・シル・ヤマト・ローベンシュタインです。

以後お見知りおきを 」

此方も男性でロイド氏と背丈も同じくらいだ。

見た目の年齢もロイド氏を見ると同年代だと思われる。

髪は茶色が強めの赤毛である以外は、地球のサラリーマンの様な洋装だった。

まるで、大手企業のCEOや代議士だと紹介されても信じてしまう自信がある。


「司法府最高議会長の フェリシア・エル・ヤマト・ラングリッサです 」

ちょっと見蕩れてしまったのは……

気付かれたようです……。

沙弥華さやかの視線が突き刺さります!

黒髪に黒目でマリア陛下と同じ、顔立ちは……美人なお姉さんです!

 何と言うか裁判官か聖職者? そんな服装でありながら、どこか妖艶な雰囲気も漂っているような? 

紅花べにばなといいマリア殿下といい美人さん多すぎです。


この国は国王の下に行政府(上院)、立法府、司法府が横並びの行政形態をとっている。


 行政府のみ上院と下院に分かれているが、各都市にて選出された下院議員の中より上院へ信任選出された人物が、首都にある上院へと転任する。

そうする事で、地方都市と首都との連携をとり、国民の声を受け取り易くする努力を行なってきた。

また、公人は国民と憲法と国王に忠実であることを誓う義務がある。


一通り挨拶が済むとマリアが本題を切り出した。


「困惑しているようですが、お二人は遊者としてこの国に招待・・されたのです 」


「召喚じゃなくって、招待だって? 」


「そうです。 招待ですよ 」


「お二人の国に流行るようなお話しなら。

「魔族の王、魔王が復活し、軍勢を率いて人族領へ勢力を広げている。

我らローベンシア王国も決死の覚悟で戦いに臨み、何度かの襲撃は撃退することに成功したが魔王軍の力には到底及ばず。

もう後がない……勇者召喚を決断し異世界から勇者となり得る者をこの世界へ呼び出す禁忌の術を行う事を決断したのだ! 」

となりますが、この世界ので襲って来るのは同じ人族ですね 」



あら、なんか想像と違ってきたよ?

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