第8回 ANGEL AT SUMMMR NIGHT

2013年9月2日(月)


さて新学期である。さすらいの一人相撲男2年A組流水荒太は5カ月のブランクを経て、登校。


今日から遠慮なしに岸森明日菜の美貌を拝むことが出来る。キスシーンを目撃したにせよ、神は神。彼の中ではある程度リセット出来てる。


しかし1時限が終わっても2時限が終わっても彼女は登校して来ない。


そういえば学年首席の我道幸代も来てない。”何かあったのかな?”




放課後になって、桂崎哲史は天津玲奈が廊下でC組の欅坂蓮次郎と談笑して一緒に帰る所を見た。


まあそういうことなら諦めるしかないが、告白する前で良かった……とはいえガックリ落ち込んでいた。


漫研で大音量でRADIOHEADの「IN RAINBOWS」を流す。


窓辺でボンヤリと校庭を眺める。後から入ってきたB組の野々宮暮彦がボリュームを絞る。


「どうかしたの?廊下に響いてたよ」


「ああ、悪い、悪い、音量でかすぎたか……」桂崎は声に力が無かった。


「なんか気落ちしてるみたいだね?」


桂崎は答えず、ソファーに座り込んだ。


「エルビス・プレスリーのCDとかないよね?」桂崎は虚ろな目で聞く。


「ここにはないだろうね……」野々宮は一応棚を眺める。


「いいや、あとで北島達にリクエストするから……」


「なんでまたエルビス・プレスリーなの?」


「LOVE ME TENDERが聴きたくてさ……」


「ああ、あの悲しげな曲か?失恋でもしたか?」


桂崎は首をうなだれる。野々宮は冗談になってないことに気付く。


30分後校内にエルビス・プレスリーの「LOVE ME TENDER」が流れる。


英語教師希林直美はまだ残業中だった。「まったく、肌が荒れそう……早く終わらそう」


そこへこの曲である。希林は頬杖をついて天井を向く。


職員室に誰もいなくて、自分一人でこの曲を聴いているのかと思うと感慨深かった。


思えばここ数年、男にこんなふうに囁かれたことないなあ……。


”なんでみんなこんないい女放っておくのかな?”


希林は首を振り、皮肉まじりに笑い、仕事に戻る。





2年A組の哲学男”陣野一”は駅前のベンチで禅の本を読んでる。


そこへC組の登戸源氏と雨宮季理絵のカップルが通りかかる。


3人の視線が合って、登戸が手を振り、雨宮がお辞儀する。


陣野は「こんばんわ」とぶっきらぼうに一言。


2人は何も言わず通り過ぎる。


「そんなに愛想ない態度はないんじゃない?」


いきなり黒ずくめの長髪女が陣野の隣りに座ってる。見てくれは”魔女の宅急便”の”キキ”だ。


陣野は突然の事態に対応できず、目が泳いでる。


「なんだね?君は?」


「あなたの心の一部よ……良心の一部と言った方がいいかな?」


「何を訳の分からないことをい……」


キキは陣野の唇に人差し指を押し付ける。


「訳の分からないことはないのよ……あなた自身が自分の殻に籠ってるのがまずいと思って私の出番ってわけ……わかる?哲学君にはわかると思うんだけど……」


「あ……悪霊退散!」と言い陣野は本を開きまた読み始める。


「だから、悪霊じゃなくてあなたの良心なんだってば……」


陣野は本を閉じ、「お前何者だ?」キキを睨み付ける。


「名前なんてなんでもいいけど、そうね、あなたの良心だからリョッシー、天使リョッシーでいいんじゃない?」


陣野は顔をしかめ、立ち上がる。「バイバイ」手を上げて立ち去る。


「あなたの体の一部だから、どこでも現れるわよ!」リョッシーが訴えても陣野は耳を塞ぐ。


「逃げても意味ないのになあ……」






欅坂蓮次郎のマンションのベッドから月が見える。夜11時。A組の天津玲奈は隣りで寝息をついてる。


「明日はどんな外泊の言い訳を用意するのかな?」蓮次郎は腕をついて天津の寝顔を見つめる。


2016(H28)7/20(水)・2019(R1)11/28(木)



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