第40回黒のギャップ・デー

朝気付くと我道は既に出かけていて、テーブルにスクランブルエッグとフランスパンがラッピングされてる。


夏休みもあと4日で終りである。我道は進学しないで自分に嫁いで働くと言ってる。


外は残暑厳しい蒸し暑さだが、この30万のエアコンは快適だ。


去年の今頃訳の分からんアナザーワールドに彷徨い込んで、えらい目に遭った。


どうも去年の今頃の記憶は曖昧である。気が付くと病院で寝てたという感じ。


例の不気味なメール”世界はあなたの出方次第”も意味不明。



昼過ぎに我道が帰ってくる。買い物に行ったらしく手提げ紙袋をどさっと床に置く。


「何買ってきたんだ?」


「おもに衣類ね」


我道は下着姿になって、様々な洋服を次から次へと着替えて、少し大きめの手鏡でチェックしてる。


「黒い男達が囲んできてるわよ」


「え?黒い男達?」


窓の外を見ると確かに黒いバンが数台停まってる


「まさか?」


「そのまさかよ……戦闘服用意してきたからセンセも着替えて」


黒いレザーの上下だが、丈夫なやつだ。


「戦争が始まるのか?」


我道はいきなり玄関の方向へ顔を向け「しまった!」玄関から灰色の煙が漏れてる。


次の瞬間からベータの意識はなくなる。



天国口高校の上空は薄黒い雲が出てきた。


3年A組は補習組の大松と大貫、浅利と深津の4人が揃ってる。非常勤講師堂面菊次郎は机に脚を投げ出して居眠りをしていた。


4人はそれぞれの世界に入ってる。補習授業というより無法地帯だ。


アニオタの大貫はスマホでアニメを流しながら、シナリオの構想を練ってる。


浅利は新しい彼氏が出来たらしく、長文メールを打ってる。


深津は相変わらずモデル顔の自分の顔を鏡で凝視してる。


そんな中大松だけは真面目に勉強していた。柔道部も一休みして今は受験に身を入れよう。やれば出来る4人の中でも彼は一番抜け出せるほど熱心だった。


堂面は昨日パブ”Foo Fire"で朝5時まで飲んで加奈ちゃんと朝方に帰宅して二日酔い止めドリンクを飲み、ほとんど寝ないで出勤していた。


生徒4人が起きてて先生が居眠りしている。この高校ならでは状況だ。


ステャラカ体育教師生田直樹はどうやって汐留先生を飲みに連れていこうか、隠れてビールを飲みながら締りのない顔で思案していた。


だが汐留先生は自分の行ってる演歌カラオケのるつぼのスナックに行くという雰囲気じゃない。


長いカウンターのショットバーが似合ってる気がする。未知の領域なのでどうセッティングしたらいいかわからない。


身近に相談相手がいないのが痛い。もうやめちゃったが伊藤シャドウ先生などは熟知してそうだ。彼がいたらなあ……まあなんとかダメモトでアタックしてみよう。


いきなり物凄い雷の音がする。生田は慌てて校庭に出ると、まだ昼の2時頃なのに空はグレーに染まり、雲の穴に竜のような黄金の固まりが出たり入ったりしてる。


校庭に出た教師や生徒達も空を見上げ、茫然としてる。


「なんだ、2014年で世界が終わるのか?」生田は竹刀を肩に担ぐ。


2015(H27)12/15(火)・2019(R1)11/16(土)




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