第38回 OUR DAYS ANOTHER SIDE

8月24日(日)


朝ベータが気付くと我道が全裸で仰向けになって寝てる。まるでローマの彫刻のような美しい裸体だった。


しばし腕を組んで眺めてから毛布を掛けてやった。朝っぱらからそういう気分にはなれん。


ベータは大きく欠伸をして、まったく運動不足で困る。酒豪の我道は多分昨日シャワーかなんか浴びて、酒を呷り、服も着ないで寝てしまっただろう。しょうがない億万長者だ。


我道は運動神経も良ければ、頭も良くて、完璧なルックス、炊事洗濯も難なくこなす完全主義者のように思われてるが、一緒に暮らしていて意外にズボラで呑気なとこもあるんだと感じていた。


そういう隙のある人間の方がいいのは当たり前だ。


東大一発合格の頭脳を持ちながら、大学受験を蹴って、働く道を選ぶ所は潔い。


我道は普段白いTシャツにジーパンというファンキーでシンプルなファッションを好むが、バーリデルに行く時はとても18歳とは思えないロングドレスを着こなす。


ファッション関係の仕事もしてみたいと言っていた。身長も169cmくらいありそうだからいっそモデルでもやればいいじゃないかと聞いたこともある。


「モデルねぇ~あんま興味ないなー」みたいな返答が返ってきたと記憶する。


見てくれからして目立つ美女だが、本人はあまり目立ちたくないようだ。




「あれ~なんで裸なんだろう?おかしいな」


「やっと起きたか、もう昼だぞ」


「ああ~なんか昨日深酒したみたい……頭痛ー」


「とりあえずなんか着ろよ」


「センセ、朝飯食べたの?」


「パン2枚ね」


「ゴメン、ゴメン、今何か作るから」


我道は全裸のまま台所へ向かう。嫌な予感がしたがやはり全裸で調理を始めてる。


「お前さ、AVじゃないんだから裸で料理するなよ」


「えーだって誰も見てないじゃん」


ベータは諦めてまたパソコンへ戻った。何か音楽でもかけるか……ジョン・コルトレーンの「BLUE TRAIN」をチョイス。



「センセ、冷房欲しいとか言ってたよね」


「うん」


「年末にパパの慰謝料として上乗せで3億くらい入るから、2,30万くらいするいいエアコン買おうよ」


「うん」


「何かあまり嬉しそうじゃないないね……」


我道は依然裸のままだ。服を着る気がないらしい。どうせ指摘しても裸のままだろうし、神様あなたはどうやら私に強靭な理性を与えたみたいですな。もう慣れたからいいけど。しょうがない。


「何か家電でも買いに行かんか?」


「これから買いに行ってもいよ。私かなり貯金あるから、働いてるし」


何して働いてんのか、全然教えてくれない。出勤の時はセーラー服だったり、ドレスだったり、メイド喫茶か、パブか?


しかし天国口高校の上層部も何考えてんのかね?一ヶ月謹慎ってことは2学期から登校可能じゃんか。


シャドウ先生も我道と別れてから、学校やめて視界から消えて、なんであっさり別れたのかも我道は語ろうとしない。


大体シャドウ先生も我道もデートしてる所を見られただけなんだから、関係があったのかは誰もわからんじゃないか。


シャドウ先生も可哀そうだねえ……まるで俺が我道を奪ったみたいな感じじゃん。


直接会ったわけじゃないが、酒くらい付き合ってやりたかったな。どうも引っ越しちゃったみたいだし。


我道は赤いシャツにジーパンを穿いていた。「センセ行こう」我道は玄関を出て腕を絡めてきた。


俺はもう天国口高校の部外者だから、我道とイチャイチャしても文句は言わせない。


俺は我道を愛してると言えるんだろうか?よく考えたことない。


向こうも裸を見られても平気なくらい空気みたいな関係になってるし、このまま一緒になってもいいかみたいな乗り。


一つ疑問なのが、倍近く歳の違う俺のどこに惚れてんのかということ。


去年のわけのわからん夏のすったもんだから一年。我道は常に運命共同体だったからか……。


首を左に向け彼女が気付き微笑み返してくる。


天使の微笑み……いやなんと形容したらいいか、天使以上だろう。これほど美しい微笑みを映画でも見たことない。この世のものと思えん。あまりにも美しすぎて男として萎えてるみたい。


結局空気清浄器とエアコンを買う。帰りファミレスで夕食を取る。ハンバーグステーキを食べる


「でもセンセ歳のわりに腹出てないよね」


「そうか……運動不足なんだよな……キャッチボールでも付き合ってくれるか?」


「いいよ。でも今夜も酒飲もうね」


また酒地獄か……地獄の天使”我道幸代”か……。絵になるねえ。


2015(H27)11/23(金)・2019(R1)11/15(金)

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