第32回SHADOW IN THE MOONLIGHT

「お前どんどんみっともなくなってるな?」本城ベータは呆れ顔で我道を見る。


ベータの長袖シャツを下着姿で羽織り、朝っぱらからビールを飲んでる。


「そうかな?こんなもんよ私、第一暑いじゃない、ビールでも飲んでなきゃやりきれない」


「だからシャドウ先生にフラれたんじゃないのか?」


我道は右上を眺め「うん……そうかもしれない。でもお互い自然に心が離れていった感じね」


「夏休みも終わるってのに進学するのか、就職するのかもはっきりしない学年成績トップの生徒なんて聞いたことないぞ……」


我道はビールの2本目を開け、「いいの、いいの、センセに嫁ぐから、私が養ってあげるわよ」


「俺がヒモでいいのか?」


「全然OK」


「ふーん、物好きだな、無職36歳を食べさせる18歳の美少女か……そんなに魅力あるか?俺?」


我道は答えず、「シャワー浴びてくるね」そう言ってタオル片手に浴室へ行く。


ベータはパソコンに向き直り、キーボードを打ち始める。




「ふーん、こんな終り方か……」ベータと我道はレンタルで映画「愛のむきだし」を夕方までかけて観終わる。


全編237分……3時間を超える長さ。


「でも長さは感じなかったね?」我道は缶チューハイを飲んでる。


「お前朝から何杯飲んでんだ?」


「さあ?10杯くらい?」


ベータは溜め息をついて「とりあえずさ……お前大学行けよ、家族が崩壊してるらしいけど、俺もこの一年で貯金したし、学費は払ってやる。な?結婚なんていつだってできるだろ?」


「うーん」我道は天井に目をやり「なんか大学で学びたい事ってないんだよね……働いて早く社会に出ちゃった方が早道な気がして……」


「お前勉強したいことないのか?」


「うーん、今のところね……」


その時我道の携帯が鳴る。


「あ、ママだ」


ベータは「え?」と驚く。


我道は話しながら、台所の冷蔵庫から缶チューハイを出す。


「わかった、了解……じゃあね」


「お母さんから電話か?」


「うん、パパが億単位の慰謝料と家ごとくれるみたい、私にも2億くらい分け前があるんだって」


平然と言ってのけるが、我道を驚かすことなんて、この世にあるんだろうか?




いつも通り我道の絶品料理と酒といいたいところだが、二日酔いが覚めてない。


「なんか月が綺麗だよセンセ」


2人でベランダで、満月を眺める……ここで普通ならキスシーンといきたいところだが、そうはならない微妙な関係の2人……。




8月19日(火)


朝7時にアラームが鳴る。ベータは欠伸をする。我道はセーラー服に着替えてる。


「珍しいな、学校へ行くのか?」


「まさか!今私謹慎中だよ……」


「ああ、そうだったけ……で、なんでセーラー服なんて着てるんだ?」


「仕事、仕事……」


「メイド喫茶でも行くのか?」


「秘密、秘密、夜には帰るから、今日はカレーでいいよね?」


「うん、いいよ」


考えてみれば、自分も贅沢な時間を過ごしてると思う。昨日見た輝く月。自分は本当に選ばれた人間なんだろうか?よそう、よそう、考えるだけ無駄。


2015(H27)8/16(日)・2019(R1)11/14(木)

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