第12話 74階層ー2
「フレア君。バッドエンドは覆せないけど、少しは救いのある結末になら辿り着けるかもしれない」
悲しい結末が嫌いなルーラに、救いのある結末を見せるため、フレアは動き出す。
スケルトンに近付くフレア。その動きに気付いたミヤが、慌てて叫んだ。
「だ、ダメにゃ! こいつは思った以上にやばいにゃ! 来たら殺されるにゃ!!」
フレアは、止まらない。それどころか加速した。近付くフレアに対して、スケルトンが大剣を振り下ろす。それをほんの少し横に移動しただけで躱したフレアは、振り下ろされた剣の柄をスケルトンの骨ごと握りしめる
『ゴキッ!メキメキ』と骨の砕ける音が響き、スケルトンの手が大剣から離れる。
手放された、身長よりも長い大剣を、フレアは片手で振り上げて、後ずさるスケルトンの脳天目掛けて、振り下ろした。
「んにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『ガラガラガラガラガラ…………』
気の抜ける驚愕の声と、スケルトンが崩壊する音が同時に響き渡った。
「おまえ、そんな強いなら最初から戦うにゃ! ミヤが怪我したの何の意味もないにゃ!!」
自分で戦わないよう言っておきながら、酷い言い種のミヤに、フレアが苦笑を浮かべていると、ルーラが駆け寄ってきて、ミヤに治療を施す。
「さあ、さっさと邪神を倒すにゃ、フレニャが手伝えば勝てるかもしれないにゃ」
そう言いながら、リング状の建物を抜けて、邪神の元へ向かおうとしたミヤが「んにゃ!?」驚きの声を上げた。上半身は前に進みたがっているのに、足が地面に張り付いて前に動かないのだ。これは、セディーラの書の警告では無く、脇役と役目を終えたクリエに対して、世界の意志が行う妨害。
「ミヤ君……。無理なんだよ。ボク達はあの戦いには干渉できないんだ。世界の意志は、君が動く事を絶対に認めない」
ルーラが申し訳なさそうに、今の事態をミヤに伝えた。ミヤは、一瞬の放心の後、また必死に進もうとしながら、声を上げる。
「――――――そ、そんにゃ……早くしないと二人とも殺されちゃうにゃ! さっきそう言ってたにゃ! だから……だから、行かなきゃだめにゃ!!」
必死なミヤを嘲笑うかのように、城壁の一部が砕けて、巨大な光弾が飛び出した。そして砕けた壁の向こう側が皆の目に映る。
一人の男が、血塗れになって戦っている、既に満身創痍で、立っているのもやっとに見える。その手前には、猫耳の少女が地面を這って、戦う男の元へ近づこうと必死に足掻いてるのが見える。
そして、二人が戦っている相手は、身長2.5メートルほどの人型で、肌は炭のように黒く、羊のようにねじ曲がった角と、蝙蝠のような羽がついている。その体に傷跡は一切見当たらない。
セディーラの書により結末を知る、フレアとルーラでなくても、この先の結末がはっきり分かってしまう。――そんな光景だった。
「あ……ああ……いやにゃ、こんなの……こんなの……酷すぎるにゃ……」
それを見たミヤは膝から崩れ落ちる。共に戦った勇者と、大切な双子の妹、その二人の危機を前に、何もできない自分を強く責めながら。その頬にはハラハラと涙が零れ落ちていた。
「……フレア君、邪神には、存在だけが明かされて、内容が書かれなかった異能があるよ」
破滅が確定した戦闘が続いているが、フレアとルーラは強く手を握りしめたまま動かない。ただ凝視し続ける。戦いの終わりを待ち続ける。どんな悲惨な光景にも決して眼を逸らす事はなかった。
――――ついに時が来る。邪神の手刀が、勇者の左胸を貫く。その腕が引き抜かれた後、勇者は、ゆっくりと地面に倒れる。地に伏したミアが、勇者に向けて必死に差し伸べていた手。その手が、力を失い地に落ち、ゆっくりと瞼が閉じられる。
――――ここに、一つの物語が終幕を向かえた。
「フレア君!! この世界は作者の意志から、今解き放たれた!! ここからはボク達の創る物語だ!!」
「ああ! 掴み取ろう、少しだけマシな未来ってやつを!! ――デュアルブースト!!」
フレアは駆ける。邪神を打ち倒すべく、全力で駆ける。弾丸と化したフレアにとって、数百メートルの距離など無いに等しい。
邪神の目前に辿りついた時、まだデュアルブーストは効果を持続している。右手に握った剣が閃光のように振りかざされる。
この世界において最強最悪の邪神は、その剣を………………。
「イギャアアアアアァァァァァァァ!!」
躱す事も出来ずに、まともに食らった。勇者と戦いながらも無傷だった体に、肩から腰に向けて太い朱線が引かれる。
ルーラは、ミヤの戦いを見て気が付いていた。ミヤの言った『ラスボスを守るスケルトン兵』その名に見合わぬ脆さを。そして、その脆いスケルトンに苦戦するミヤは、勇者と共に戦う最強クラスの戦士。この世界の生物はフレアの敵ではない。
「ボクが見出した最強の脇役が、あんな邪神なんかに負けるわけが無いんだ!! 行くよミヤ君!!」
そう宣言したルーラは、放心しているミヤの手を掴み、無理やり立たせて、駆け出す。明確な死の描写が無かった、ミアの命を救うために。
――――作者の描く未来、その全てを叶え、役目を終えた世界の意思は、もはや全てを許容する。――――
邪神に傷を負わせたフレアは、再度吠える「デュアルブースト!!」そして始まる切れ間ない斬撃、横に斜めに縦に、あらゆる方向から切り返される、白銀の刃の前に、瞬く間に傷が増える邪神。その体に赤く染まっていない部分は既にない。
「チッ! これは……」
フレアは、2回目のデュアルブーストが切れた時、邪神の異能に気付いた。傷口がどんどん塞がっていくのだ。チラリと一瞥した邪神の顔に、勝ち誇るような笑みが浮かんでいた。
その時、後方から叫びが聞こえる。
「フレニャァァァ!! 体の中を移動する核を壊さにゃいと、そいつは何度でも復活するにゃぁぁぁぁ!!」
……そういう事か、身体の中を移動するって……偶然当たるまで切り続けるしかないって事か……いやっ! 違う!! 動く前に壊せばいいだけだ!!
フレアは叫ぶ「デュアルブースト!!」この日3回目のデュアルブースト、これで使用回数を全て使い切った。
「行くぞ! 今日が、お前の最終回だ!!」
フレアは、邪神の表情を読みながら、目一杯後方に溜めた剣を右胸に突き刺す。『その顔じゃない! 戻れ!』――時間が巻き戻る――これが1回目。
戻った先は、剣を突き出す瞬間。そのまま左胸に剣を突き立てる『違う! 戻れ!』2回目の時間遡行。
次は右の脇腹、その次は左の脇腹、どちらも望んだ結果が出ない。
そして5度目、首の付け根を狙い突き刺した。
――――首の付け根を突き刺された瞬間、邪神の表情が崩れる。瞬く間に絶望の色に染まっていく。
「そうだ……その顔が見たかった……」
恐らく邪神は一撃目で、核を破壊されたことで、より深い絶望を味わったのだろう。実際には5回目で貫いたのだが、それはフレアにしか分からない。
「ギャァギュァギャァギュァ、ギュェアァァァァァァァァ!!」
聞くだけで、体の芯から凍り付きそうな断末魔を響かせながら、邪神の体が石に変わっていく。
もはや用は無いと言わんばかりに、フレアは後ろを振り向き、ミアの元へと歩き出した。
フレアがミアに辿り着くのと同時に、ミヤとルーラもミアの元に辿り着いた。
「ミア! ミア! ミアァァァ」ミアに縋り付くミヤ。その横にルーラが座って手をかざす。
「ヒール」手から降り注ぐ光が、瀕死だったミアの傷を徐々に癒していく。
その様子を見たフレアは、勇者の元に向かい、その胸にそっと手を添えた。
『……………………………………………………』
……やはり、明確に『命を失う』と記された勇者は助からなかったか……勇者さえ生きていれば、ハッピーエンドだったんだがな……。
ふと、ルーラの方を見やると、目を覚ましたミアも合わせて、3人の視線がフレアに注がれていた。……フレアは、目線を下げながら、ゆっくりと首を左右に振るのだった。
炭焼き小屋に戻り一夜を明かした一行は、目覚めと共に旅立ちの準備をしていた。髪型でしか区別がつかないミヤとミアが二人の元に歩み寄り、そっと手を差し出す。
「ミヤのは、フレニャにやるにゃ」「ミアのは、ルーニャにやるにゃ」
二人は、握っていた守護の指輪をそれぞれの手に乗せたあと、ギュッと両手で包み込んだ。
「原初の世界って、どんなとこかしらにゃいが。絶対生きて辿り着くにゃ!」
「死んだら承知しないにゃ!」
そう言いながら名残惜し気に手を離した二人にルーラが笑いかける。
「大丈夫さ! 君だって見ただろ。ボクには邪神すら倒す最強の脇役が付いてるんだ!! 絶対に辿り着くよ!」
ルーラの言葉を聞いたフレアは、少し照れ臭そうにしながら、自分の意思を語った。
「最強かは兎も角、俺も必ず辿り着くと誓うよ。……階層を上るたびに守りたい人が増えていくんだ。だから、死んだりできないさ」
猫姉妹と分かれた二人は、三日かけて再び地底へ続く階段へと辿り着いた。
「よし……行くか?」「よし……行こうか?」二人の顔色はすこぶる悪い。
「「せーの、絶対障壁!!」」ルーラを背負ったフレアが、ダッシュで階段を駆け下りる。目の前が見えなくなる程の密度を誇る『通り抜ける物、全てを焼き尽くす地獄の業火』が、二人を包みこんだ。
「フレア君!! 熱くないけど、超怖いよ!!」
「奇遇だな!! 俺もこんなに怖いのは久しぶりだ!!」
転がり落ちるような勢いで、炎の壁を突き抜けた二人の前には、L字の曲がり角が。……すでに手遅れだった。
「フレア君!! 前、前!! ぶつかるーーーーーー!!」
『ドオォォォォォォォォン!! ――――パラパラパラパラ………』
見事に衝突し、壁を破壊した二人は、その場に座り込む。そして顔を見合わせて笑い声をあげた。
「痛くないね。絶対障壁」「悪くないな、絶対障壁」
ひとしきり笑った二人は、足並みをそろえて歩き出す。
そこから先は、すでに勇者が通った道。あらかた魔物は片付いており、なんの障害も無いまま、ゲートまで辿り着いた二人は、73階層に向けて、新しい物語のページを開いた。
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