俺はマルス。NPC。プレイヤーの彼女ができました。

たまご

1章(本編) 町の惨劇

1話 ユイちゃんと待ち合わせ

 俺はこの街の近衛騎士マルス。生まれも育ちもこの街だ。そんな俺には最近彼女ができた。ユイちゃん、16歳。ソロ冒険者で、若いのにもうLV60を超えてるんだって。いったいどれだけ頑張ってきたんだろうなぁ。27歳の俺がLV70だから、そう変わらないんだもんなぁ。これでも、俺もけっこう強い方なんだけど……。

 そんなユイちゃんは夜の21時以降しか姿を見せない。昼の間は学校っていう場所に通っているらしいんだけど、詳しくは教えてくれていないんだ。いつか教えてくれる日が来るといいなぁ。

 そんなことを考えている今も、待ち合わせ場所の『魔力水の滝』でユイちゃんを待っているところだ。

 今予定より30分遅い21時30分なんだけど、まだ来ないなぁ……。あっ、来た。

「ごめーん!遅くなっちゃってごめんね、マルス」

「よかった。ユイちゃん、遅いから心配したよ。何かあったのかなって」

「ごめんごめん。どうしても今日中にやらないといけない宿題があって」

「宿題って学校で出る、やんなきゃいけないことのことだっけ。何か俺が力になれることがあったら言ってくれよ?手伝うから」

 そういうと、ユイちゃんは苦笑しながら、

「だ、大丈夫だよ。マルスの手を煩わせるのは悪いから」

 ユイちゃんはこういう風には言ってくれてるけど、本当は俺なんかじゃ役に立たないんだろう。まあ、俺は学がないからな。でも、どういったことについて学んでいるのか、俺は興味がある。魔法学とかなら分かるけど、ユイちゃんの通っている学校では数学とか化学とか聞いたことのない学問をいっぱい教えているんだって前言ってた。

「ごめんな、力になってやれなくて」

「ううん、心配してくれてありがとねっ」

 そういうと、ユイちゃんはそっと微笑んだ。金色の長い髪が風に乗ってふわりと揺れる。つい俺は見とれてしまう。


「マルス、どうしたの?」

 そう言うユイちゃんの大き目で少し潤んだ青い瞳が、俺を上目づかいで見つめる。

 あーもう、かわいいなぁ!

「ごめん、ちょっとみとれてた」

「も、もう……」

 そういって恥ずかしそうにはにかみながら、肩を震わせる。

 昔からユイちゃんはかわいかったけど、最近特にかわいい。一つ一つの仕草が、表情が、声が、全部がかわいいのだ。日を追うごとにかわいくなっていってる気がする。

 気づくと、ふっとユイちゃんが顔を寄せてきた。俺の鼻っ面をユイちゃんのフローラルな香りが刺激する。

「それよりマルス、今日のクエスト行こっ」

 ユイちゃんと俺のデートは、冒険者ギルドから提示されるクエストを一緒にやることである。ユイちゃんは普段ソロで活動してるんだけど、二人じゃないとクリアできないクエストがある時に俺と一緒に行くことになるんだ。

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