第6話

何分かするとぞろぞろとクラスメイトであろう人たちが入ってくる。そのほとんどが女子である。早く、男子が来てほしい。僕がそう思っていると、八代くんが僕の肩をつついてきた。

「そういえば、どこの中学から来たんだっけ」

まるで、肝心なことなのに聞くのを忘れていたと言われているかのような口調である。

「△△中だよ」

八代くんは、顔を近づけてくる。

「そんなに遠くないね。ちなみに僕は、♢♢中」

八代くんは、ふわりと笑う。その表情が女の子のように柔らかい。

すると、隣の席でカタンという椅子の音がする。僕は、ふと隣を見ると今までに見たことのなく、美人と言われてもおかしくない女子がいた。見た目から判断するのはどうかと思うが、内面も女の子ではないか。そして、妙にあの過去が思い出される感覚。もしかしたら、会うたびに思い出されてしまうのかもしれない。

「おはよう、私、鮎川雛。よろしくね」

鮎川さんは、僕に笑顔を見せる。しかし、僕は聞こえたか聞こえないかぐらいの小声でよろしくと呟いただけだった。


入学式が始まる二十分前には、一年一組のメンバーが揃っていた。しかし、僕の隣は鮎川さんではない。それはほんの数分前のことだ。

「私、席間違えた」

いきなり、ひとりで立ち上がり、その席を手放していく。僕は、ちらりと鮎川さんの方を向き、また八代くんと話す。鮎川さんとはそれだけでそれから先なにも関わりがないとこのときの僕は思っていた。



入学式が始まると、他のクラスであろう人たちが続々と一組のとなりに並んでいた。

「計200名」

五組の担任の先生のその言葉だけが僕の耳に残っている。自分がどう返事をしたかも覚えていないのに。

「続いて、校歌披露です」

進行の先生の指示に従うことのなく、ステージの上に先輩たちが並んでいく。さすが、先輩だと僕は秘かに思った。ピアノの音が聞こえると、指揮などなくても歌い始める先輩たち。その顔はまるで、学校生活が楽しいということをアピールしているように見えた。そして、僕も本当に高校生活の始まりを迎えた気がした。








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