幻界夢想譚

真田 貴弘

プロローグ

「ここって……どこだあぁぁぁーーー!?」


 少年は一人暗闇の中、手の平に収まるサイズのペンライト片手に右往左往する。


 少年の名は工技くぎ理真りしんと言い、今年で十三歳になる。


 つい最近、両親が事故で死ぬという不幸に見舞われ、親類縁者がいなかった少年は弁護士と名乗る男に片田舎の児童擁護施設に預けられた。


 しかし不幸はそれだけでは留まらなかった。


 その男、実は親族を何らかの理由で亡くした遺児達の相続された財産を目的に近付き、横領しては自分の懐に入れていたのだ。

 理真の両親が残した家や土地はその弁護士の手によって売り払われ、お金は他の財産と一緒に弁護士が持ち逃げした。


 弁護士の悪事が発覚したのは理真が入所した直後。

 現在、警察が捜索しているが、その行方はようとして知れない。


(施設じゃ他のガキ共が喧しいわ、職員や先生は哀れな目で俺を見るわで落ち着かないから裏山で静かに落ち込みたかったのに、まさか穴に落ちるなんて……。 とことんツイてないよ。 救いなのは怪我が掠り傷程度で済んだのとペンライトを偶々財布に付けてたから助かったけど、これからどうしよう……)


 助けを待つのが正解なのだが理真は誰にも告げずに裏山に来ていた。

 その上落ちた穴は崩れてしまい土砂で塞がれてしまった。


 携帯やスマホなんて両親が死んだ時に横領弁護士に解約させられたので持ってない。

 そもそも持っていたとしてもこの穴の中では電波が届かないだろう。

 なので、自力で他の出口を探すしかない。


 落ちた先は洞窟になっていて、人一人分は十分に通れるくらいには広い。

 だが複雑に入り組んでいる上に暗闇の中何の目印もないので理真は既に迷子になっていた。


 理真が穴に落ちて既に数十時間が経過している。

 が、未だに出口らしき場所に到達しない。

 理真はそのうち喉の渇きと空腹、疲労が合わさり動けなくなった。


「このまま助からなかったら――死んだら、父さん母さんのトコに行けるんかな……」


 その場に蹲り、意識が徐々に薄れていく。


「それも、いっか……。 …したら、また…三人で…楽しく……」


 意識を手放した理真の手から小さい灯りを放つペンライトが転がり落ちた。

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