第42話

 打ち上げはどんどん盛り上がり、みんな文化祭の話しで盛り上がっていた。

 隣のクラスの誰が誰と付き合っただの、他校のあの生徒が格好良かっただの、文化祭の話しに皆華を咲かせていた。


「そう言えば高志! お前って結構やる男だったんだな! 俺は見直したぜ」


「へ? なんでだよ」


 声を掛けた来たのは、野球部の繁村(しげむら)だった。

 クラスでも中心人物の繁村とは、高志はあまり面識は無かったのだが、やけに楽しそうに高志に話しを掛けてきた。


「グランドでのあの戦い! 俺も見ていたぞ! 俺はお前の事をなよなよしたただのもやし野郎と侮っていたが……意外に男気があるじゃねーか!」


「お前見てたのかよ……」


「当たり前だ! そんでもって、お前と優一の信頼の厚さを知った時にはもう……俺は感動したぞ!!」


「そ、そうか……」


 話しながら、肩を組んでくる繁村に、高志は暑苦しさを感じながら、苦笑いで答える。

 すると、そんな話しを聞いたクラスの女子の一人が話しに混ざって来る。


「私も見たよ! 意外だったわ~八重君って結構男らしいのね」


「え? 何々? なんの話し?」


「俺たちにも教えろよ!」


 どんどん他のクラスメイトも話しに混ざってくる。

 繁村は二日目の高志と紗弥のステージでの出来事を皆に話す。

 知っていたクラスメイトもちらほらいたようだが、始めて知った人がほとんどだったようだった。


「はぁ~いいなぁ~紗弥。そこまで思われて……」


「私もそんな事してくれる彼氏が欲しい~!」


 女子は女子で、紗弥を羨む発言が目立っていた。

 高志の意外な男らしさを知り、こんなことを言う女子も現れた。


「はぁ~、これだったら、一年の時にアタックしておけばよかったなぁ~」


「「「え?!」」」


「あれ? 私なんかまずい事言った?」


 そう言ったのは、一年の時も同じクラスだった女子で、陸上部の結城(ゆうき)と言う女子生徒だった。

 彼女の言葉は、まるで高志に好意を抱いていましたよと言わんばかりの言い方で、その場の全員が一斉に結城に視線を向けた。


「あ、いやいや違うから! 一年の頃にちょっと良いなぁって思っただけで、今はなんとも思ってないから!」


「な、なんだよかったぁ……ここで紗弥とバトルでも始めるのかと思ったわよ……」


「でも、確かに八重君ってよくよく考えれば、かなり優良物件よね?」


「そうそう、紗弥を大事にしてるし、浮気とかしなさそうだし、何より優しいのはポイント高いわ~」


 いつの間にか、高志がカッコイイ見たいな話しになってきて、男子達は面白くない。

 そんな男子達は、高志に怒りの矛先を向ける。


「おい高志! なんでお前は彼女が居るのにモテるんだよ!!」


「そうだ! もしかして惚れ薬とか持ってるのか?! 持ってたら俺に譲って下さい!」


「まて、俺なら三万出す!」


「持ってねぇよ……」


 そんな男子に溜息交じりにそう言うと、高志はふと紗弥の方を見た。

 頬を膨らませ、何故かジト目で不満そうに高志を見つめていた。

 一体どうしたんだろう?

 そう思っていると、突然席を移動してきた女子達に高志は囲まれた。


「ねぇねぇ、紗弥のどんなとこが好きなの~?」


「え? ちょ……なんだよ急に」


「いや~、八重みたいな男に好かれるにはどうしたら良いかなって、参考までに……」


「で、紗弥のどんなとこが好きなの? やっぱり顔? それとも足?」


 女子に囲まれ質問攻めにあう高志。

 男子はその様子を肉を食いちぎりながら、恨めしそうに見つめる。

 茂木にいたっては、最近クラスの一番モテる男子の称号を高志に取られそうで、一際悔しそうに高志を見ていた。

 いつの間にか優一も席を移動し、男子で固まり、憎しみの視線を高志に送りながら、肉を食べていた。

 そんなハーレム状態の高志の元に、とうとう紗弥が動き出した。


「ねぇ、みんな……」


「「「あ……」」」


 紗弥の登場に、高志を囲んでいた女子達は凍り付く。

 ヤバイ、本妻に怒られる。

 そのとき高志を囲んでいた全員がそう思った。

 しかし、紗弥は不安そうな表情で皆に言う。


「……高志にあんまりそういうことされると……取られそうで恐いから、やめて欲しい……」


 いつものキリッとした紗弥でも、高志と一緒の時の甘えた感じの紗弥でもない。

 まさに小動物のような弱々しいその言葉と仕草に、その場の女子とプラス一名の変態は心を奪われる。


「紗弥~そうだよね~、ごめんね~。ほら、大丈夫だよ~誰も取ったりしないから~」


 そう言って紗弥を抱きしめるのは、由美華だった。

 頬を赤く染め、はぁはぁと吐息を漏らしながら紗弥を抱きしめてそういう。

 そんな由美華の姿を見た高志は、これ以上は色々とまずい気がしたので、紗弥の隣に移動し、由美華から紗弥を引きはがす。


「あん……紗弥~、可愛いよ紗弥~」


「……あのさ……御門って結構ヤバイ奴?」


 高志は先ほどまで自分を囲んでいた女子にそう尋ねると、なぜか皆苦い顔をして首を立てに振った。


「にしても……紗弥ってあんな顔もするんだね~」


「だね~、いつもはキリッとしてるのに……そんな紗弥を骨抜きにするなんて……八重君って何者?」


「もの凄いモノを持ってるとか?」


「もの凄いテクを持ってるとか?」


「持ってねぇよ!」


 そんな感じで打ち上げは盛り上がり、時間は過ぎていった。

 高志はその後、紗弥の席の隣に座り紗弥を不安にさせないようにしていた。


「じゃあね~」


「また学校で~」


「優一! 早く女紹介しろ!」


「へいへい」


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、打ち上げは終わった。

 店の前で皆と解散し、高志と紗弥は帰りの道を歩いていた。


「楽しかったな」


「そうだね、美味しかったし」


「あぁ~なんか来週からテスト週間に入ると思うと、気が滅入ってくるな~」


「ウフフ、高志はいっつも平均点くらいしか取らないもんね」


「それも知ってるのかよ……はぁ、勉強したくないなぁ…」


「私が教えるって言っても?」


「え、教えてくれるのか?」


 笑みを浮かべながら話す紗弥に、高志は嬉しそうに答える。

 そんな高志の顔に、紗弥は更に嬉しそうに答える。


「もちろん、嫌って言っても勉強させるから」


「でも、紗弥と勉強か……なんか、集中出来なさそうだな……」


「? どうして?」


「え、あ……いや……その……」


「ん~? なんでかな?」


 にやりと口元を歪めながら、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 紗弥は高志がどんな事を言おうとしているのか予想出来ていた。

 だからこそ、高志自身に言わせたかった。


「さ、紗弥と二人って言うのは……なんていうか……緊張するっていうか……あぁぁ~俺、何言ってんだろ……悪い、変なこと言った! 忘れてくれ!」


「ふぅ~ん、じゃあ二人っきりで帰ってる今も緊張しちゃってるんだ~」


「……あぁ! そ、そうだよ! 悪いかよ!!」


 高志は開き直り、顔を真っ赤にしながら、紗弥に言う。

 紗弥は高志のそんな言葉に、ドキッとした。


「だってよ……なんか、本当に好きだってわかったら……紗弥がなんか今まで以上に可愛く見えて……前は違ったのに…最近だと二人っきりだと緊張して仕方ねーんだよ!」


 高志は顔を真っ赤にしながら、やけくそ気味に紗弥にそういう。

 言われた紗弥は顔を真っ赤にしたまま、その場で硬直する。

 少しからかおうと思っただけなのに、高志から正直な気持ちを言われ、紗弥はなんだか恥ずかしくなってしまった。


「そ、そうなんだ……じゃ、じゃ……二人きっりには……慣れるまでならない方が良い?」


「そ、それは別な意味で嫌かも……そ、その……多分そのうち慣れるから……今まで通りで……」


「う、うん……わかった。も、もぉ……高志、私の事好きすぎでしょ……」


「あ、あぁ……多分……」


「な、な! み、認めるの?!」


「嫌……だって、本当の……っておい! 紗弥! 足早いって!!」


「~~~!! 今は来ないで!! こんな顔、高志に見られると恥ずかしい!!」


 高志をからかおうとする度に、逆に自分が高志にドキドキさせられてしまう紗弥。

 真っ赤な顔でにやける自分の顔を高志に見られたくなく、紗弥は帰り道を走り出す。

 高志はそんな紗弥を追いかけていく。


「紗弥! 走ると危ないぞ!」


「じゃあ、顔見ないって約束して! 馬鹿!」


「なんで馬鹿……」


 こうして、今日も高志と紗弥の一日は終わっていく。

 これは高志と紗弥の日常のほんの一部。

 彼らの日常はまだまだ続くが、今回はここまで。

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