第11話
数分後、高志は一通り片付けを済ませ、紗弥を部屋に入れた。
「なんだ、以外と綺麗じゃない」
「以外とってなんだよ……それより、見る映画の上映時間調べるんでしょ?」
「あ、そうそう、じゃあ失礼して」
紗弥は当たり前のように、ベッドに座る高志の隣の座る。
高志はスマホで、上映中の映画を調べ、紗弥に見せる。
「どれ見る?」
「そうだなぁ……」
紗弥は高志のスマホを覗き込む。
一週間が経ち、こうしてくっつかれる事にも慣れた高志。
しかし、やはりまだドキドキはする。
女子らしい良い香りや、柔らかい感触などには、まだ慣れそうも無かった。
「これ見ようよ、恋愛映画だし、デートに最適でしょ?」
「あぁ、いいよ。じゃあ、上映時間を調べて……」
高志の予想通り、紗弥は恋愛映画を選んだ。
流行っているらしく、映画館のホームページもその映画を推していた。
「午前の上映にする?」
「うん、それで良いよ」
「じゃあ十時半の上映の奴で、決定で」
「そうね、じゃあ決める事も決めたし……」
明日の事も決まったし、もう帰るんだろうと思った高志だったが、紗弥は立ち上がるどころか、いつものように高志の腕にしがみつき始める。
「今日は放課後何してたの?」
「え? いや、ちょっと友達と寄り道してただけだよ」
「ふ~ん、彼女より友達を優先するんだ~」
目を細め、ジト目で高志に言う紗弥。
高志は「え?! そんなことで怒るの?」と、驚いたが、次の瞬間には紗弥はいつも通りの笑顔に戻っていた。
「なんてね、冗談だよ。そりゃあ、八重にも八重の事情があるし、私にだって私の事情があるからね」
「本気で怒られるかと思ったよ……」
紗弥の表情は完全に怒っていたように見えた。
冗談と言われ、本気で高志はほっとした。
今後はこういう冗談はやめて欲しいと思いながら、高志は紗弥を見る。
「そこまで、私だって独占欲は強くないよ。あ、でも浮気は許せないかな?」
「する度胸も相手もいないから安心してくれ……」
「だろうね」
「そう言われると傷つくな……」
笑いながら、いつものように話しをする高志と紗弥。
そんな時にふと高志は思う。
確かに、こうしていると楽しい。
でも、これは恋愛感情とは違う。
友人と部屋で話しをして楽しいと思うのと何ら変わりが無い。
そう考えると、高志はなんだかこのままでは行けない気がした。
高志が考えていると、紗弥が口を開いた。
「でもさ……他に好きな子が出来たら、正直に言って振って良いからね……」
「え、急にどうした?」
突然のそんな重たい話しに、高志は驚き紗弥に尋ねる。
紗弥はいつも通りの笑顔のまま、高志を見ながら言う。
「私の事、本当に好きって訳じゃないの知ってるんだから」
「え……」
「一週間も一緒にいれば、気がつくよ。私が特別な人って感じがしないんでしょ?」
心でも読まれているのかと思った。
紗弥の言うとおりだった、高志は紗弥に対して特別な人という感覚が無かった。
見ていて綺麗だとは思うし、可愛いとも思う。
でも、恋人と言われると、そう言う感情では無い気がした。
「私が八重に甘えてるだけなんだって事は知ってる。だけど、今好きな人がいないなら……今だけで良いから……彼女にして。その代わり、他に好きな子が出来たら、私なんてすぐに捨てちゃって良いから……」
笑顔なのに、紗弥の顔は悲しそうだった。
なんとなく、紗弥が色々と積極的な意味がわかった気がした。
スキンシップを好んでとるのも、甘えてくるのも、全部、今だけは自分の近くに居て欲しいという紗弥の願いだったのかもしれないと……。
そんな紗弥に、高志は自分の考えを正直に話そうと思った。
「そんな事、言わないでくれよ……」
「え……」
高志は紗弥の目を真っ直ぐ見て、話し始める。
「確かに、まだ付き合って一週間だし、正直急に付き合ってって言われたから、まだ好きなのかどうかもわからないよ……でも、たとえ一週間でも、ちゃんと一週間、宮岡を見てきたんだよ」
紗弥は高志のそんな真っ直ぐな言葉に、何も言い返せなかった。
「急にデートだなんて言うから、色々焦って色々考えたし、急に家に来るなんて言うから、正直ドキドキしたし……一応、宮岡の喜びそうな事を考えたりしてたんだ……」
「そうだったんだ……」
「まだ、好きかどうかはわからないけど……宮岡がどれだけ俺を好きなのか知ってるし、そんな宮岡を可愛いと思ってる自分も居るんだ、だから正直に言ってくれて良いんだよ」
高志の言葉に、紗弥は俯いてしまう。
そして、かの泣くような小さな声で、紗弥は高志に言う。
「……良いの? 私結構……面倒くさいよ?」
「良いよ……俺も多分結構面倒な性格してるから」
優しく高志がそう言うと、紗弥は顔を上げ、涙を流しながら高志に言う。
「私の事、好きになって!」
高志は、ようやく宮岡の本音が聞けたような気がした。
本当は最初からこう言いたかったのだろう、しかし、高志に嫌われると思ったのだろう、紗弥はそんな本音を言えず、今だけはと言う気持ちで我慢していたのだ。
高志はそんな紗弥に笑顔で答える。
「うん、頑張る」
「フフ……頑張るって何?」
「いや、好きになれるよう頑張るっていうか……その……あれ?」
「もぉ……私の彼氏は大事なところで締まらないなぁ~」
「す、すいません……」
涙を拭き、笑顔で高志に言う紗弥。
高志は「うわぁ……かっこわりぃ……」と自分を卑下していると、紗弥は高志の手を握って口を開いた。
「安心して……高志が頑張らなくても、私が高志を惚れさせるから」
始めて名前で呼ばれ、高志は少し新鮮な気持ちだった。
しかし、そんな事などどうでも良いと思えるほどに、そのときの紗弥の表情は美しかった。
そして、視線を反らして気がつく。
部屋のドアが開いており、飲み物とお菓子を持ってきたのであろう、高志の母がドアノブに手を掛けたまま固まっているのを……。
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