第489話口を割れ

あの後、あれだけ忠告をしたのに、具体的な対策を言わなかったおかげで、自分ならできると思っている暗殺者が、自国にとっての邪魔な国の王を殺そうとした。


しかも、こんなに大事な任務に就かせるくらいなんだから、結構自信があったのだろう。


しかし、そんなものは通じない。


今回、アインが王族の部屋にかけた魔法は、この世界から完全に切り取るといった魔法で、扉を厳重に占めてはいるが、もしもその扉が物理的に壊されたとしても、その中はただ何も置かれていない部屋になっていた。


まぁ、そもそもの問題として、その扉も魔法で強化されているので、そんなに簡単には壊せない代物だった。


「さて、君たちはわかっていると思うけど、ここでの暗殺は禁止とさんざん言っておいたはずなんだが?」


そんなこと言っても、誰も口を割ろうとはしなかった。


それは当たり前で、仮にも彼らは国の運命を任されるような暗殺者なのだから、そう簡単には口を割らないだろう。


「君たちはおそらく、死んでも口を割らないと思っているね?

実際に、さっき確認したところ、口の中に毒を含んでいるものもいたし。」


普通、つかまってしまった場合には、その毒袋をかみちぎって自害しても、情報は渡さない。


しかし、アインの前ではそんなことはできなかった。


それに、今回は、暗殺者の数が複数ということで、取り除く前にかみちぎってしまったものもいたが、蘇生魔法も、回復魔法、浄化魔法すべてが使えるアインには何の問題もなかった。


即効性だったら、蘇生。


遅効性だったら、浄化。


ダメージを負っていくタイプだったら、持続系の回復魔法をかけ続ければいいのだ。


「ということで、君たちが自分から情報を提供してくれることには期待しない。

しかし、今回は、禁止したものを、しかも他国で行ったのだ。

主催者である私としては何としてでも犯人の国を割り出さなくてはいけない。

ということで、君たちにはある程度のことはさせてもらうよ。

最後に遺言でもあるかい?」


アインがそういうと、さすがに遺言を求めたことによって、暗殺者側にも動揺が走った。


「何、別に殺したりはしないさ。

それに、君たちは貴重な暗殺者だ。

この国では暗殺者の育成なんかしていないし、君たちを利用させてもらうよ。

ただ、遺言を求めたのは、君たちはどうしても本音は話さないだろうから、ちょっとだけ君たちに細工をしようと思ってね。

その結果によっては故郷には二度と帰れないようになってしまうかもしれないしね。」


実際には、100%故郷には帰れないのだが、ここでいきなり自白されては、貴重な暗殺者を手に入れることができない。


もしかすると、帰れるかもしれない程度に思わせるのが必要なのだ。


そして、少し待ったが、特に誰も遺言はなさそうだった。


「それじゃあ、始めるよ。」


そういうと、アインは兵を使って、奥の部屋に暗殺者と一緒に入っていった。


そして、少しするとアインは1人で、その部屋から出てきた。


特に悲鳴のようなものも聞こえず、扉に何かしらの魔法がかかっているような様子はない。


しかし、入っていった暗殺者が出てこないことに、暗殺者は疑問を感じたのだ。


しかし、そんなことは、アインの気にするようなことではない。


そして、アインはどんどんと、暗殺者と一緒に、部屋の中に入っていくのだった。

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