第419話顔


確かに、市民たちは、領主がこのようなことを言ったことによって、彼に対して不信感を持っていた。


しかし、それでももともと、彼らが嫌っていたのは、領主だったのだ。


もちろん彼らの心の中では、今でも彼に対する不信感のほうが大きかった。


しかし、その心も動いてはいた。


しかし、それでも、基本的には領主のほうに不信感がある。


そんな領主がいやらしい笑いを浮かべたまま、彼を笑っている。


そんな状況を見たら、だれしもこう思うだろう…


(ん?これってもしかして、領主のほうが嘘を言っているのでは?)


本当にそうなのだが、現状ではもしもの世界だけど、そんな確証が市民たちの中に芽生えていた。


「さぁ、みんな!

商人をこの町から出して、我々を苦しめている元凶を今こそ捕まえようじゃないか!」


そういって、領主は市民に自分の手で、彼を捕まえるように指示をした。


しかし、その指示に従うものはいなかった。


なぜなら、今、領主はほかの人に責任転換できたことがうれしく、そして、青年が滑稽に見えているので、いやらしい顔をしたままなのだ。


だからこそ、もともと彼の顔を見て、怪しがっていた人も、今の領主の命令の時に彼の顔を見た人もここで、わかったのだ。


今、一番人をだましているのは領主なのだと…


今までも、今回の不祥事が原因でこんな状況になっているので、いやな印象はあったが、所詮嫌な印象というだけだった。


しかし、今となってはその印象は変わっていた。


なぜなら、今の、会話で、領主の嘘はばれてしまった。


今までは、ただ問題を起こす奴ということで、悪い印象だったが、とうとう嘘までつき始めて、しかもその内容は、人に責任を押し付けるという、やってはいけないことだ。


そんな彼の命令を今更受け入れるようなやつはいないだろう。


「どうしたお前ら?貴様らを苦しめている元凶がいるんだぞ?」


どういっても、すでに誰も信じていなかった。


しかし、市民たちは今、何もできない。


なぜなら、領主は万が一のことを考えて、2階から降りてきていないのだ。


さすがに、今、ここに集まっている人の中に一気に2階まで飛べるような超人はない。


まぁ、冒険者ならできる人がいるだろうが、そういう人たちは、この町で食料などが不足し始めたころに、すでにこの町を抜けている。


さすがに、領民でもない人を束縛する方法はないので、領主も、冒険者に関しては基本的に何も干渉しないで、出ていくことを黙認していた。


しかし、今の状況を考えると、ある意味冒険者がいなくなっていたおかげで安心して、窓から顔を出せているのだ。


「何をやっているのだ!?早く彼を捕まえんか!」


そんな命令が出たので、市民たちはいっせいに動き出したのだった。


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