第8話 予防接種





 娘と初めての予防接種にいった。



「予約していたわたなべです」


 わたしが子どもの頃、お世話になった小児科だ。訪れたのは10年以上ぶり。



 院内は相変わらずカラフルなソファが並んでいて、テレビ画面ではエンドレスでアンパンマンが流れている。


 娘は既にそのアンパンマンに釘付け。



「少し待ってようね、ちいちゃん」



 だっこされた娘はいい子にじっとしている。


「わたなべさーん、中待ち合いでお待ち下さい」


「はーい」


 ちいちゃんを抱き、中待ち合いであらかじめロンパースを脱がせておく。


 腕を出すとお腹のあたりはしっかりボタンを止めて、寒くないようにしてあげる。



「わたなべさん、どうぞ」



 情けないことに、わたしのほうがすっかり緊張していた。


 わたしは注射が苦手なので、まだなにも知らない娘がその恐怖や痛みは本当に辛いだろうと、ドキドキしながら診察室へはいった。



 先生が取り出した注射器は2本。



 あ~痛そう、怖いなぁ。



「びっくりして暴れちゃうと危ないから、しっかりぎゅってしててね」



 わたしは娘をぎゅっとだきしめ、覚悟を決めた。



 チクッ!



「…………あー」



 …ん?今、あーしか言わなかった?




「反対の腕にもするよ、ぎゅっとしててね」




 チクッ!




「あっ!………アー」



「いいこだったね、泣かなくて偉いよ!」




 まじか!


 ちいちゃん注射平気なんだ!!



 その後も娘は何事もなく、アンパンマンをじっと見つめ、グズることもなく帰宅したのでした。

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