前世で多忙だった俺は、異世界で余生をのんびり送ります。
雪霧
第1話女神のいたずら
「みなさん、本日は、日本JK航空をご利用いただきありがとうございます。この便は…。」
機内アナウンスが流れ、俺、佐藤春幸は自分の仕事内容を頭の中で確認した。
サンフランシスコに着いたら、タクシーを拾って会議の会場へ、会議が終わったらまた空港に戻ってきて日本へ帰り、着いたら本社へ直行してまた会議…か…。
俺の仕事は海外へ自分の会社の利点を伝え、契約数を増やすというものだった。本当に忙しい仕事で、1年間の間で休日と呼べるものは3日ほどという地獄のブラック企業だ。
今回の出張なんで海外かなあ…。昨日だって3つも会議に出席しなきゃいけなかったし、全く眠れてない…。こんなことがしたくて俺は学生時代に勉強をしてたんだろうか…。できることなら…、生まれ変わったら、周りのことを気にしなくてもいい、のんびりまったりとした生活を送りたいな…。
「まもなく、離陸します。」
離陸を告げるアナウンスが流れ、飛行機の速度が上がる。体が椅子に引き寄せられる。数秒の揺れの後、ゆっくりと自分の乗っている飛行機が空へと上昇しているのが体でわかる。もう何度この感覚を味わったことか…。そして直後、機体が大きく揺れた。
「ただいま、気流が不安定になっておりますので大きく揺れることがございます。ご了承ください。」
乗務員が慌ててそうアナウンスした直後、また大きく揺れた。機内からは、揺れを楽しんでいる若者の声と、泣き出した子供の声が聞こえる。先ほどアナウンスをした乗務員が、他の乗務員に確認をとり、機長とも連絡をとっているようだった。
飛行機が揺れることはよくあることだが、今回は揺れが大きいし多いな…。何も問題が無ければいいが…。
そう思った矢先…、機体が大きく揺れ、機内が赤く点滅を初めて、酸素マスクが目の前に飛び出てきた。
なっ…!
「ただいま、原因はわかっておりませんが、トラブルが発覚しました!乗客の皆様は速やかに目の前にある酸素マスクを装着してください!」
おいおいまじかよ…!
機内からは、悲鳴や怒号が飛び交っている。俺はこんな状況ながら以外にも少し落ち着いていた。
死ぬかもな…これ…。
窓の外を見ると、もうだいぶ上空にいる。もし本当になんらかのトラブルが起きているのならば、そのトラブルによっては無事では済まない高さだ。そしてその思うのを世界が先読みしてたかのように、機体を上昇させていた揚力が、一気に無くなった。
終わった…。
一瞬の停止とともに、自らの死を悟る。結局原因はわからなかったが、抵抗もなく飛行機が落ちていくのだから死以外の結末はないだろう。
しかし、人生はジェットコースター。降りることも戻ることもできず、死という落下へと進むだけだと昔から思ってはいたが、まさか本当に落下して死ぬとはな。
などと思いながら、直後、飛行機が山に墜落し、俺、佐藤春幸は、27歳の若さでこの世を去った…。「この世を」な。
「…はっ!ここは!」
目が覚めると、そこには美しい女性がいた。 いや、美しいという言葉では言い表せない、あえて言うなら神々しいだ。青く輝いた髪は深海を思わせ、その真っ白な肌は、雪のようだった。
「初めまして、佐藤春幸。ここはユグドラシル。そして私は、女神ティアマト。あなたを導くものです。」
原初の女神の名を名乗ったその女神は、一言発すだけですべてが許されるような、そんな気持ちにさせられるような声だった
「あなたは27歳という、人間では短い一生を送りました。そしてその人生は多忙の中、片時も休むことができず、やりたいこともできなかったでしょう…。」
確かにそうだ…。俺の人生は一言で無意味。社会の歯車にしかなれず、何も成し遂げられず、自分の欲望にすら従えなかった無意味。できることなら…。
「できることなら、好きに生きてみたかったと…。そう思いますか?」
わかるのか…。
「ええ、だって女神ですから。」
女神ティアマトは、いたずらっ娘っぽく笑った。
「これからあなたを、そのままの若さ、そのままの記憶で、異世界で生まれ変わらせます。あなたの希望通りの人生が送れるように…。何か希望はありますか?」
ああ…、本当にそれができるのなら…俺は…。異世界で自給自足して、まったりゆっくり暮らす。そんな余生を送ってみたいな…。
「わかりました。春幸の要望に合った生活を提供しますね。では少しの間、目を閉じておいてください。目を閉じると、そのまま異世界に飛びますが、もし気が向けば私も遊びに行くので、心配しなくて大丈夫です。」
目を閉じながらそんな女神らしからぬことを言われ、ツッコミを入れようと反射的に目を開けると…
そこは紛れもない異世界…、ということはなく。本当に異世界に転生したのか判別できない、ただの森だった。
「いやティアマト、転生させるなら場所考えろよーーーー!!!!!!!」
いたずらっぽい女神の笑い声が聞こえた気がした。
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