36一時脱退宣言

「悪いけど、バンドちょっと抜けるわ」


 梅雨明けのある朝。

 オレはついこないだ入った軽音楽部の一時脱退を友人に申しつけた。


「ははは」


 ジョークやと思ったらしく、笑い飛ばされた。


「旅に出んねん」

「どこに? アメリカか? ロシアか?」


 信じて貰えず、ボケを催促するように返事をされた。


「西日本。バイクでな」

「それ撮影してユーチューバ―にでもなんのか?」

「いや、やり残した旅がある。八月十日の昼から行くわ。やから夏の練習には出れん。夏終わってまだ席があったらまた入れてくれ」


 具体的な日付を聞いて友人は首を傾げたが、その顔にはまだ疑いの笑みがあった。


「去年は舞鶴からフェリーで北海道に入ってぐるっと回って、苫小牧から八戸のフェリーで本州に戻って岩手内陸の遠野を経由してから日本海に出て、海沿いに石川を通って琵琶湖東側から京都を越えて山陰道を走って鳥取まで行った。そこから内陸に戻って父方の田舎まで行ったんや。今度は田舎から出雲に向かって、関門トンネルから九州通ってフェリーで屋久島に行こうと思う。縄文杉見てくるわ」


 友人の笑みが消えた。


「ほんまに? 何で?」

「色々あってな。また話すわ」


 ちょうど始業の鐘が鳴った。

 友人は「旅て……」と呟いていた。


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