第49話 好きなの?
「あらっ、志保ちゃん、どうしたの?ニヤニヤしちゃって」
「えっ?」
顔に出ていたみたいだ。毎日学校に行くこと、あの班で話すことが楽しみだった私だが、明日は、武井の家で4人でテスト勉強するから、なおのこと興奮していた。
お父さんが単身赴任で東京に行ってしまってから、私はお母さんと2人でご飯を食べている。
ニヤニヤする私に、お母さんは驚きながらも笑顔で聞いてくる。
小学校のときは、事実を素直に話していたのに、今はなんとなく恥ずかしいから「別に」と顔を伏せ、切り干し大根を噛み潰す音に集中した。
待ちに待った土曜日。来たる中間テストの2日前。
私と彩音、そして武井君は、勉強会の前に授業の復習をしていたから、あとは英単語のスペルミスや連立方程式の応用問題を数回解くぐらいだった。
方や友永。
ここに来るまで、何も勉強などしていなかったらしい。
その証拠に、まるで雪国のような真っ白なノートと、部屋に散りばめられたゲームソフト達。
「なんで、何もしなかったの?」
彼以外の全員が持った疑問を、彩音がぶつけた。
「えっ、なんでって?今日勉強するから、別に大丈夫かなーって」
えっ…。
こいつ、バカなの?
中間テストが終わり、部活動が再開したことで、友永と武井君はグラウンドで練習するから、私は彩音と2人で帰った。
「テスト、どうだった?私、全然できなかったよ〜」
彩音が、全てを出し切ったようにぐったりした様子で私に話しかける。
「私も。特に数学が難しかった。」
私も、すっかり疲れ切った様子でそう答えた。
「そんなこと言って、志保。絶対満点とかありそうだもん。勉強できる人ができない人の前で自信ないように振る舞うのは嫌味だよ〜?」
「ホントだってば」
私たちは、人生初の中間テストというものを経験し、前もって分かってたんだけど、いざやってみるとここまで神経をすり減らすものなのかと思った。
「でも、結果、楽しみだね!」
「うん!」
しかし、結果を楽しみに待つ感覚は悪くないし、 むしろ気持ちがいい。これは、ちゃんと勉強をした人にしか分からないだろう。
「幸人、散々だったろうね〜」
彩音が、滑稽と哀れみを混ぜたような声で言った。同感だった私も、「うん」と、苦笑する。
突然だけど聞いてみたくなった。彩音は…。
「彩音って、友永のこと、好きなの?」
そう言った直後、彩音が、分かりやすく取り乱した。
「はっ、はあっ!!!?何言ってんの!?んなわけないじゃん!!」
「いや、なんとなく。彩音、友永の話するとき、すごく楽しそうだから」
彼女の乱れっぷりに圧倒されて、これ以上は何も聞けなかった。聞いたら彩音が失神しそうで心配だったし。
「あいつは、ただ話しやすいってだけだから、ありえないよ、あんなの!!」
「わかったって、ごめんってば」
苦笑しながら謝る。
そっか。
彩音って、友永のこと。
「あの!」
校門を潜ろうとしたところで、後ろから声を掛けられた。
男子の声。
その男子の姿を確認した私たち2人は、「知り合い?」というような顔で、きょとんとして互いを見つめ合う。
あっ、と私は思った。
今日、ハンカチを落とした時に拾ってくれた人だ。
「さっきはありがとう。どうしたの?」
「片岡さん、ちょっといいですか?」
彩音が、気を利かせたように、「じゃ、また明日ね〜」と言って、小走りに去って行った。
中学に入学してから初めての告白。
その相手は、お世辞にもかっこいいとか、爽やかとか言えないような、簡単に言えば女子からモテない男子。
この時期ぐらいから、私は、『チカラ』の存在を自覚し始め、友永たち男子との関わりもなるべく避け始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます