56.淋しい思いをさせてごめんね≪古里羅≫
同じクラスに、美少女にしか見えない男子がいて、ヤンチャな男子に標的にされていた。
苛められてるのを放っておけなくて、気づけばいつも側で彼を守るようになっていた。別々のところへ進学するまでは。
中学に上がり、私はすごく心配になった。彼がまた苛められてるんじゃないか、毎日泣いてるんじゃないかって。
だけど時が経つにつれ、心配は不安に変わっていった。もし私みたいな存在が現れたとしたら、彼はその相手に心を許してしまうんじゃないかと。
彼の特別、唯一心を許す存在が、私が離れているうちに出来てしまったらと考えるだけで叫びたい衝動に駆られた。彼の特別は私だけでいい。
私以外を好きになる前に、何としてでも彼の側にいかなくちゃ!ーーと思ったけど、子どもの私にどうこう出来るはずもなく、同じ中学に通うのはどう頑張っても無理だった。
毎日ジリジリした気持ちで過ごし、卒業後に彼が入学する高校を調べ、私もそこへ入学した。
同じ制服を着ている私が目の前に現れたら、彼はどんな顔をするだろう?ビックリした後、すごく嬉しそうに笑うに違いない!
私に逢えた嬉しさで瞳を潤ませるかも!
彼の態度をいろいろ想像しながら、廊下の向こうから現れた彼を見る。
さぁ、いよいよ彼との再会の時よ!ーー私のこと忘れてたらどうしよう…、そんなことが過り、柄にもなくちょっと緊張してる。
近づくにつれ分かったけど、すごく背が伸びていた。ーー昔は私より小さかったくせに生意気!
変わったのは身長だけじゃない。今の彼は長めの前髪で顔立ちがよく分からないようにしていた。
そんな姿を見て私は察した。
彼は私以外に心を許す気はないんだと。
昔は皆子どもだったから、彼の容姿は苛めのネタになったけど、今は年を重ねモテる要素に変わったはず。なのに武器になる容姿を晒そうとしないのは、誰も側に置きたくないという彼の無言の決意としか思えない。
…私を待っててくれたんだ。
私が側に居られなかった年月を、彼が独り寂しく過ごしていたのかと思ったら切なくなった。
寂しくさせてごめんね。
零れそうになる涙を堪え彼を見れば、風でフワリと舞う前髪。
「…ぁ」
どう見ても美少女にしか見えなかった彼は年を重ね、中性的で綺麗な男へと進化していた。
一瞬私を見たけど、何も言わず彼は角を曲がり別方向へ。ーーどうしよう、私のこと怒ってる…。同じ中学に通わなかったから、彼の中では私に見捨てられたことになってるのかも!
違うの!見捨ててなんかいないの!何度そう言おうとしただろう。ーー入学して大分経つのに、結局まだ許してもらえないまま、毎日が無駄に過ぎていく。
「ーー。」
今だに彼の機嫌は直らず、それだけ私に怒ってるってことは理解してる。でも、いい加減機嫌直したっていいと思う!
「ーーん、古里羅さん。」
ああ、何か切っ掛けがほしい…
「古里羅さん。」
「……何?」
「やっと気が付いてくれた。」
無視されてるって気づきなさいよ!ーーイライラしながら返事をすれば、苛立ちなどこれっぽっちも気付いてないで話を続けてくる。
「次の授業で使う道具を、一緒に取りに行ってほしいんだ。」
「…は?何で私が取りに「よし、時間ないから急ごう。」
「人の話聞きなさいよ!」
黒渕メガネの冴えない男のくせに、何かっていうと絡んできてウザい。ーーそうやって私の気を引こうっていうアンタの魂胆なんてお見通しなんだから!でも、おあいにく様。アンタなんかお呼びじゃないの。
マンションから出てきた彼が門を通り出てきた。
今日の彼は白いシャツにデニムのスキニー、ネイビーのカーディガンにスニーカーだ。
暫く歩き駅前広場に到着後、ベンチに腰かけた。ーーどうやら彼は私を許す気になってくれたようだ。ああして私が話しかけやすいように気をつかってくれてるのね!
彼も悩んでたのね。一度頑なな態度を取ったことで素直になるタイミングが分からなくなったんだと思う。
ちゃんと話しかけてあげるから、今日こそは素直になりなさいよ!
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