【2】
ミッションを成功させ庭に出ると、空にはとても綺麗な満月。
古代、月の兎は杵で不老不死の薬をつき、満月を表す言葉、望月が転じて餅に変化したんだったかな。
そんなことを思いつつ、暫し見惚れながら思う。
餅食いたいな、と。
今の気分はきな粉か餡か。醤油に海苔、納豆、ナメコ…、しょっぱいヤツより甘いヤツかな。砂糖醤油、ずんだ。やはりお餅は胡桃が良いかも。あのタレって摺った胡桃に砂糖と何が入ってるんだろ?
美しい月の下、幻想世界に身を委ねていると視線を感じ、そっちを見れば、少し距離のある場所にお坊っちゃまが立って居た。
マヌケ顔で、私を見つめながらフラフラと歩いて来る。
なんか蛍光灯に寄ってく虫のようだ。
「…」
「……お前「「「波多野くーん」」」
「ここに居たのね」
「も~、探したんだかね!」
「結花理、波多野君が居なくてすっごく寂しかったぁ」
「こんなとこで何してたの?」
「ねぇ、早く中に戻ろ。」
「結花理、波多野君とお散歩したぁい。二人で。」
「ちょっと、何どさくさ紛れに誘ってんのよ。波多野君、私、波多野君に相談したいことがあるの。」
「相談とか良く言うわ。単なる口実なのはバレバレよ。」
突然プチコントが始まったのでお暇しよう。
「おい、待てっ」
ハーレム野郎が声を掛け、そこで漸く気付いた顔で私を見る女子3名。
皆、美少女である。モゲれば良いのに。
「誰、この人。」
「まさか、こんな人と会うために出て来たとか言わないよね。」
「貴女だぁれ?そんな見た目で、波多野君と二人きりで過ごすなんて、図々しくなぁい?」
「見たことないんだけど、どこの家の人かしら。まぁ、名乗られても、聞いたことない家の可能性が大きそうだけど。」
「橋本物産辺りの関係者じゃない?あそこ、最近業績が伸びてパーティーにも呼ばれだしてるし。」
「あ~、だから見たことないのね。…ねぇ貴女、ちょっと身の程弁えた方良くない?波多野君は、貴女レベルが親しくして良い人じゃないの。」
「二人共、ひどぉい。あの人の親は、汗水たらして必死にここまで上り詰めたんだよ。死にもの狂いで頑張って、やっとこのレベルのパーティーに呼んで貰えて、夢見心地なんだから、水を差すようなこと言ったら可哀想。だから結花理はぁ、この名も知らぬ庶民にちょっと毛が生えた程度のお家の人が、身の程知らずに波多野君と過ごした時間を、許してあげようと思いまぁす。」
私と無関係なのに酷い言われような橋本物産。関係者が聞いたら泣いてしまうことだろう。
頑張れ橋本物産。
負けるな橋本物産。
何だか涙が出そうになったので、後でポケットマネーから投資してあげよう。
「外の風に当たりに来たら先客が居ただけだ。お前等、俺を誰だと思ってんだ?相手を良く見ろよ。どう見ても俺に釣り合わないのに、相手にする訳ないだろ。俺に釣り合うのは、お前等みたいに美しく、富と教養を兼ね備えた女だ。間違ってもこんな庶民風情のチンクシャぶぐおっ」
意味をなさない言葉のちドゴンと何かが地面に激突したかのような音がしたら、何故かハーレム野郎が私の足下に居る不思議現象が。
恐らく私の下着を覗こうとしたのだろう。顔から足を退かすと、ハーレム野郎の鼻の下に赤い川が出現していた。やはり下着を覗こうとしていたという結論で間違いなかったようだ。
靴裏に付着した赤い液体を、ハーレム野郎の高級そうな服で拭く。なんかダジャレっぽくなった。
「「「いやーーッ波多野君がーッ」」」
若かったあの頃(先月とも言う)の、戯れに思いを馳せて気付く。コイツ顔合わせると鼻血出してるな。
何かの病気だろうか?空気感染するヤバい病気だったらどうしよう。
「死ぬの?」
「はぁ!?死なねーよ!」
チッ
「お前今舌打ちしたろ。」
「そんなバナナ。」
本人は死なないって言ってるが、自覚がないだけかもしれない。感染したら嫌なので早急に移動しよう。
「おい待て!橋本!」
橋本って誰だよ。
感染の恐怖に怯えながら、ドーナツで渇いた喉を潤す為、自動販売機まで走り去るのであった。
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