27.守ってみせる

オヤツどこで食べようかな?



そうだ、久しぶりに理事長室のふっかふかソファで食べよう。ソファにゴロゴロしつつ、オヤツを堪能しよう。


なんて思って来てみれば、理事長が居る気配がした。



チッ。



仕方ない、別の場所にしよう。


どこにしようかな。



考えながら歩いていると、声が。



どうやらサボってる奴がいるようだ。



授業をサボるなんてダメだと思う。まったく、学校に何しに来てるんだか。学生の本分は勉強ですよ。ここはひとつ品行方正な私が注意しなければ。



疚しさなど欠片もない、純粋に正義感から注意すべく、声のする方へ。





「…っん、…やっ、ダメ~。」


「へぇ~、ダメなんだ。……じゃあ、もう止めようか?」


「やっ、もう、…分かってるくせに、意地悪なんだから~。」


「意地悪されんの好きだろ。」




見たことのある踏み台だ。


玄関マットの方は見たことないが、何度も使われてそうな玄関マットだ。




なんだ、てっきりサボってる生徒かと思ったら気のせいだった。



良かった。サボってる人じゃなくて。人見知りだから知らない人に話しかけるって勇気がいるし、出来ればしたくない。


玄関マットに密着して座ーー置いてある踏み台を踏むために助走し、ジャンプした後着地。ーーの予定が、ウッカリ助走の勢いがよすぎ踏み台の後頭ーー端っこ的なとこに膝蹴りが決まり、見事な前転を繰り返しながら踏み台が遠退いて行った。



「波多野くーん!?ちょっ、アンタ何なの!?」


「リア充滅ぼし隊所属の、ただの通行人です。」


「はぁっ!?意味解んない!」


「ザケんなっ!この暴力女ッ!」


葉っぱや小枝でデコレーションしたオシャレ踏み台が、鼻の下に赤い川を描きながらやって来た。



「か弱い乙女の、か弱い力でちょっと当たっただけなのに、大袈裟なリアクションで人を責めるなんて何処の当たり屋ですか。」


「大袈裟じゃねーッ!」




その瞳は怒りに燃え、睨み付けてくる。視線の強さに小心者の私の身体は震え、視線を逸らすことも立ち去ることも出来ない。



力ずくで何かをされてしまえば、か弱い私は抵抗も出来ず、ただただそれらを受け入れるしかないのだ。




蹂躙…。そんな言葉が過る。






乳輪ーーちょっと言いたくなっただけです。



私に向かって来る踏み台が、やけにスローに見えた。



嗚呼、神よ。私が何をしたと言うのですか?清く正しく美しく生きてきた私に、何故このような試練を与えるのですか?




私はそっとオヤツの入った袋を覗く。




プレーンドーナツ、シュガードーナツ。アーモンドチョコドーナツにココナッツドーナツ、ストロベリーチョコドーナツ。そして生クリームがたっぷり詰まったドーナツ。




試練というものは、乗り越えられる者にのみ与えられると言いますが、神よ、あんまりです。試練が厳しすぎます。どれも美味しそうで、最初に何を食べたら良いか選べません。けれど与えられた試練は乗り越えねばなりませんね。




シュガーにするべきか、プレーンにするべきか。それが問題だ。やはり一番あっさりなプレーンを最初に食べるべきか。




シュガードーナツ、君に決めた。




もぐもぐ。うまうま。




何故か波多野踏み台の眼差しが、いっそう険しさを増す。


獲物を仕留めるハンターが、獲物の全てを奪い去る刹那の一瞬にも似た時が、私達の間に生まれた。



食うか食われるか。少しでも気を抜けば力無き私は失うだろう。





オヤツを…





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