5.電波って都市伝説だと思ってた


急に態度が変わった皆に、美羽ちゃんがワタワタし出す。


「え?え?どういうこと!?」



「藍蒔、いつものやつ。」

「はいッ」


感極まった顔で藍蒔は四つん這いになる。



「「お手をどうぞ」」



副会長と書記の手に手を重ね、私はゆっくりと藍蒔に跨がった。



「あああ藍蒔君!?何やってんの!?ねぇ!正気に戻って!藍蒔君はそんな人じゃないでしょ!…アンタのせいね、さっきなんかやったからでしょっ!」


「何でしょうこの感じ…、上手く言えませんが、自分で行動してた筈なのに、誰かの記憶を入れられたような、ひどく気持ち悪い感じですね。」



副会長の言葉に二人も頷く。



「こんな女の側に居て、時間を無駄にしていたかと思うと腹立たしい限りです。」


「葛城君!?なんで名前呼んでくれないの!?」




ノート型魔法具の動画を再生して見せる。



『…美羽』

『萩原君?どうし…っん…』



「ななな何これぇー!?なななんで私がッ、私のッ、なんなの!?どういうこと!?萩原君!」


書記にすがり付く美羽ちゃん。


どういうことって萩原君の盗○eyeがいい仕事してるだけですが何か。



「うっわ、…最悪。あれ本当にしてたんだな。」



すがり付く美羽ちゃんはスルーですかそうですか。


顔が物凄く嫌そうだ。



「君達に“魅了”が効果あると思わなかったよ。誤算だったね。」


「“魅了”が効果があるということは、それだけ我々が人に近い心を持っているということではないでしょうか。そんな心を持つ我々を創造出来てしまう主は天才ですね。」


「うんうん。主、天才。そんな主と共に居ることが出来て俺は幸せ。」


「俺、主の柔らかなお尻を感じる悦びを知れてよかっ…あうッ」


藍蒔の尻を強めに叩いてやった。



「藍蒔はド変態ですね。尻を叩かれて興奮するんですから。うっすら染まった顔でこっち見ないでくれますか。心底気持ち悪いんで。」


「なッ、テメッ、俺がド変態ならお前だってド変態だろーが!知ってるんだからな。お前が主の「私を無視するなーッ」



美羽ちゃんブチギレるの巻。


顔がちょっと放送禁止に近いけどいいの?


イケメン共にその表情ばっちり見られてるけどいいの?


そんなことより私は藍蒔が言いかけたことの続きが気になる。


うん、嘘。


なんて続くか知ってる。



私の髪をとかしてくれた後、ブラシに付いた髪の毛を取って置いたり、私の使用済みティッシュを取って置いたり、私の入った湯船のお湯を盗って置いたり、私の噛んだガムを盗って置いたりするんだよね。



「いやあーッ」



ん?もしかして声に出してた?


美羽ちゃんの副会長を見る目がヤバいんだけど大丈夫?


「なんなの!?ねぇ、なんなの!?変態とかの裏設定なんてなかったでしょ!やめてよ、そういうの。ちゃんと設定通りにしなさいよ!」


「あれ?知ってたの?生徒会メンバーが俺様とか鬼畜とかそれぞれ演じてたこと。」


「そんな感じではなさそうですよ。…この人のこの感じは、アレじゃないですか?所謂電波、というヤツじゃないでしょうか。」



鬼畜メガネ改め変態メガネが、知的さをアピールするようにメガネをクイッとしながら言った。



「私は電波じゃない!…ここはね、《plantae》恋の緑化大作戦~君で光合成~っていう乙女ゲームの世界なのよ。貴方達の名前って植物の名前がどこかに入ってるでしょ?それがその証。フフッ、貴方達は攻略対象者ってやつなの。私に愛されなきゃ存在価値もない存在なの。わかった?自分達の立場が。わかったならさっさと私に愛される為に努力しなさいよ!フフフッ、私を一番いい気分にした人を愛してあ・げ・る。あ、夜の方の相性も確かめなきゃッ。まずは誰にしようかなぁ~。美羽悩んじゃう。」



確実に攻略対象者(と思われている)人達全員を、喰う気満々な件。




「こいつが何言ってるのかさっぱり解らん。」


「ゲームの世界とか、やっぱ電波では?」


「これで電波ということが確定しましたね。」


「電波じゃないって言ってるでしょッ!…ああ、そっかあ、私の言ってること信じたくないんだね。信じたら、自分達がゲームキャラだって認めなきゃならないものね。」



副会長と書記に目配せすると、私の意図を察し行動する。


「美羽さん、あちらのソファでお話しませんか?…お互い誤解が生じて少し心がすれ違ってしまいましたから、ゆっくり話しましょう。…俺の胸の内とか、いろいろ貴女に吐き出させてください。」


副会長が美羽ちゃんの手をとり、浅紫の瞳に蠱惑的な色を宿す。



「…美羽。」


書記が無口という設定を思い出したかのように名前のみ呟き、愛しさと切なさの宿る赤紫の瞳で見つめる。



「な、何よ急に。…まあ、いいわ。付き合ってあげる。」


うん。チョロイン。



二人に手を引かれ、ソファに移動する美羽ちゃん。


手を繋いだままソファーに座り



「…美羽。…この唇に俺…。」


書記が美羽ちゃんの唇を指でなぞる。



「美羽さん。…俺を見て。そう、良い娘です。」


副会長が美羽ちゃんの頬を指で撫でる。


そして私は愛馬、藍蒔号の尻を叩き三人の元へ。



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