翡翠の瞳のカレン 2018改稿板
にゃべ♪
第1話 翡翠の瞳
カレンはある日を境に瞳の色が
結果、原因は不明で、やがて騒ぎは収束していく。この現象によって瞳の色が変わった以外に彼女は別段何も変わった様子もなく、カレンはその後も普通に過ごし、今は高校生になっていた。
しかし、本当は些細は変化はあったのだ。
でもその事は誰にも言わなった。言ってもきっと誰も信じてくれないだろうから。
実は、カレンは瞳の色が変わって以降、不思議な声が聞こえるようになっていたのだ。
もしこんな事を周りに喋ったら、きっと専門の医者からそれ相応の特別な薬を処方される事になるだろう。彼女にとってそれは屈辱以外の何物でもない。だからこそ、その事はずっと自分ひとりだけの秘密にしていた。
で、どんな声が聞こえているのかと言うと、暑いだとか寒いだとか、気持ちいいだとか痛いだとか、そんな他愛もないものばかり。未来を予言したりだとか、奇跡を起こしたりみたいな大袈裟なものは今のところ全く縁がなかった。この声の事を彼女自身は精霊のささやきと呼んでいる。
その声の主は霊的なものでも、植物でも動物でもなく、鉱物――つまり、石からではないかと彼女自身は推測していた。
それに声が聞こえたから何がどうとか言う事でもない。ただ聞こえると言うだけ。なのでその声をラジオか何かのような暇潰しのノイズのように捉える事で、カレンは平常心を保っていた。
だからどんなにその声が自分に話しかけてきても、彼女自身が反応する事はない。
その気になって耳を澄ませば、彼女はどんな石の声も聞く事も出来た。それはつまり巨大な石の大親分でもある、この地球の声も聞く事が出来ると言う事。
けれど、それを一度試そうとしたらあまりにも巨大な意志を感じて、流石に断念せざるを得なかった。やはり一介の女子高生が聞いて対処出来るのは、そこらに転がる小石が精一杯のようだ。
「ふぅ、暑いな」
カレンは流れる汗をタオルで拭う。合宿でやって来たその場所は深い山の中で、自然が豊かな代わりに色々と不便で仕方のない場所だった。
部員が数人の写真部にそこまでの合宿が必要なのかどうかは、この際余り問題にしなくてもいいだろう。それはこの物語にそれほど影響する話ではないからだ。
最近のカメラと言えばデジカメで、昔のアナログフィルムカメラに比べたらこれが比べようもない程に便利になった。
デジカメならメモリーがある限り何枚でも写真が撮れるし、撮った写真をすぐに確認も出来る。本当に昔に比べたらいい時代になったものだ。
写真部とは言ってもカレンの所属するそれはただ写真好きが集まっただけの同好会のような集団で、技術の向上を目指そうなんて言う真剣な人はただのひとりもいない。中にはひとりくらいマニアックなのがいてもいいものだけど……。そう言うのは顧問の松沢先生くらいのものだった。
「それじゃあここから自由行動! この自然の中で素晴らしい写真を撮ろう!」
松沢先生は自由行動と言った途端、すぐに部員達の前から姿を消していた。聞けば、いい鉄道写真の撮れる穴場がこの森の近くにあるらしい。
そう、この顧問は生粋の撮り鉄なのだ。合宿の場所をここに決めたのも100%この先生の趣味だった。
カレンは個人的にはこんな不便な場所は願い下げだったのだけれど、部活自体は好きだったのでそのまま流れでこの合宿に参加していた。
そんな訳で部員7名で不参加2名の計5名の合宿。あ、松沢先生を入れて6名か。彼らは先生の呼びかけを受けて、それぞれ思い思いの場所にシャッターチャンスを求めて散っていく。
「ま、適当に写真を撮ってお茶を濁すかねぇ」
合宿に参加した写真部の5人は結構な個人主義でみんなバラバラ。カレンと仲がいい部員がいない事もなかったのだけれど、その子は今回見事に不参加決めちゃってたので、今回彼女はひとりで森の中を散策する事になってしまっていた。
森の中と言えばまた沢山の石に囲まれている場所とも言える。河原なんて行ってしまうと、彼女にとっての暇潰しのノイズもかなりの大きな雑音に変わってしまっていた。
「これだから自然なんて嫌いなんだ……」
嫌だ嫌だと言いながら、カレンの足は何故かそのノイズの元凶である石がゴロゴロしている場所ばかりを歩いていた。
そう、それはまるで何か不思議な意志に導かれるように――。
そして気が付くとカレンの目の前に巨大な石が迫っていた。ぼうっとしていたカレンはその石を目にした瞬間、急に意識を失ってしまう。
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