僕は肩を叩かれた


 座席に腰掛け、通勤電車に揺られる日々。


 当たり前のように、

 ただ毎日が過ぎてゆくと思っていた。


 高望みはしない。

 ありふれた日常で十分だった。


 でもそれは、僕と隣人の間の

 僅かな隙間を狙っていたように、

 不意にやってきた。


 言葉はないが、気配を感じる。

 それは徐々に形を持ち、

 肩越しに、息づかいが伝わるほどになった。


 電車の揺れに合わせて重みがかかる。

 払いたいのに、体が動かない。


 隣に座るそれが、僕の顔を覗き込む。

 不敵な笑みを浮かべた気がした。


 そして、恐怖と共に一瞬で悟った。

 僕は肩を叩かれたのだと。


 蝋燭ろうそくへ灯る火を消すように、

 生暖かい息が首筋へ吹きかかる。


 命の砂時計があるのなら、

 すぐに逆さへ返すのに。


 災害は、予期せぬ形で訪れる。

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