第4話
この丘の上には不釣合いの一匹の
「おうっ!やっと来たな」
と、サンポウドーPSからタカの声がした。急にタカの声がしたので、思わずサンポウドーPSを落としそうになってしまった。そうだった。このゲームでもオンライン中は会話が可能なのだ。このままサンポウドーPSにしゃべりかければいいのだろうか――と、もたついている僕にまたタカが声を掛ける。
「レフトボタンを押すと、しゃべれるよ」
僕はその指示に従い、返事を返す。
「おまたせ!」
「キョウ、また説明書読んでないだろ?いつものことだけど」
タカとは長年の付き合いだ。すでにお見通しらしい。
「うん、いつものことだけど」
「しょうがない。説明してやるから、ちゃんと聞いとけよ」
僕とは違って、タカはしっかりと説明書を読む。そして、人に説明して聞かせるのが好きだった。その点、僕たちはいいコンビだ。
タカの説明を聞きながら、KYOは丘の端までやってきた。眼下には草原が広がる。空の青と草原の緑の中を飛ぶことができたら、どんなに気持ちがいいだろう。
この丘から、地上まではかなりの距離がある。どうやって地上に降りるのだろうか。
そうしている間もタカの説明は続いていた。
「――だから、あの川沿いにまっすぐ行くと街があって――おいっ!聞いてるか?」
「聞いてる、聞いてるよ。ただ、やっとこの世界に来れたんだと思ってさ。ちょっと
「ああ、そうだよな。おかげでだいぶ待たされたもんな」
「それは本当に悪かったと思ってるよ」
「気にしなくていいよ。実はまだあんまりやってないんだ。終わってなかった別のゲームをやってたからさ」
嘘だ。タカはビースト・オブ・ザ・ゴッドの発売前に、やるゲームがなくなったと
「ところでさ。ずっと気になっていたけど、あえて触れないようにしていたんけど……もう限界だ。タカの神獣って何?魚なの?」
「
「人面魚?」
驚いた拍子に、サンポウドーPSが手から滑り落ちる。ベッドの上じゃなかったら、
TAKAの乗っている魚は
「他にも神獣いたでしょ?なんで人面魚……」
「いなかった」
「えっ?」
「他の神獣はいなかったんだよ!キョウ、『試練の
「いいや」
タカの話はこうだった。つい最近、発売されたゲーム雑誌を読んで分かったことなのだが、試練の洞窟ではプレイヤーの行動、戦闘回数、戦闘で得た経験――これもゲームの中では経験地と呼ばれ、数値化されている――金、逃走回数、歩数、手に入れた道具、道具の使用回数などにより選択できる神獣が変わってくるらしい。
「ふんふん、そこまではわかった」
「で、俺は一回も戦わなかったんだよ」
「戦わなかった?ずっと逃げてたってこと?」
「そう、だからだと思うよ」
「ふーん、それで人面魚しか選べなかった――ちょっと待ってよ、あの一つ目の巨人は?あれは試練の洞窟のボスだろ。倒さないと最後の部屋に入れないんじゃ?」
「逃げた。別に一つ目の巨人を倒さなくても部屋に入れたよ」
本当だろうか。僕はやっとのことであの巨人を倒した。KYOは回復薬を使い果たし、倒れる寸前だったのだ。逃げ切るのは至難の業だと思うが。
「お前、人面魚をバカにしてるだろ?」
「し、してないよ」
人を疑っている時のタカの顔が、頭に浮かんだ。
「かなりレアな神獣なんだからな。今まで一ヶ月ぐらいゲームしているけど、俺以外で見たことないし」
それはそうだろう。試練の洞窟で逃げ通さないと、相棒になれないのだ。それに、仮にもし選択肢に入っていたとしても、普通のセンスの持ち主ならば選ばないだろう。
「さて、とりあえず戦いながら最初の街まで行こうか?早くレベルを上げて、初心者マークを取らないとな」
「初心者?」
確かにいつの間にやら、KYO文字の後ろにはある印が付いている。車の初心者が付ける若葉マークに似たマークだ。TAKAの後ろには付いていなかった。
「タカ、これどうしたら取れるの?」
「レベルが二十を超えたら、なくなるよ」
レベルはゲーム内の強さを数値化したものだ。敵と戦い、経験を積むことによってレベルが上がるようになっている。
「よしっ、行こう!」
僕はそう言ってから気付いた。ここは丘の上で、地上まではかなりの距離がある。神獣はあの距離を飛び越えられるというのだろうか。そもそもタカはどうやってここまでやってきたのだろう。
「タカ、ちょっと待った!どうやって?」
それに対して、あきれたようなタカの声が返ってきた。
「お前、人の説明聞いてなかっただろ。ライトボタンを押すと飛べるんだよ、行くぞ!」
そう言うと人面魚がするすると上空へ登っていった。まるで、見えない滝を登っているかのようだ。僕もタカの説明に従う。すると、グリフィンは翼を羽ばたかせて空へと舞い上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます