第17話 冒険者の気概

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「あの子、レイガルにばかり話し掛けていたわね!」

「・・・同じ男ということで親近感を覚えたのではないか?見た感じ、あっちも普段から女性に囲まれて生活しているようだったからな」

 領主の長男であるコリンとの会見を終えたレイガル達は、拠点としている宿屋に戻ると早速とばかりに、ちょっとした宴会を開いていた。しばらくして酒精の効果が出始めたのか、僅かに顔を赤くしたエスティがややふて腐れたような態度でレイガルに絡み出す。

「そういえば、エスティは会見が決まった時に領主の息子に見初められたらどうしようかと心配していましたね。もしかして本気だったのですか?」

「そ、そ、そんなわけないじゃない!も、もちろん冗談よ。お子様にあたしの魅力がわかるわけないし!まさか、あんなに若いとはね!」

 メルシアの問いにエスティは更に顔を赤くして、その場を取り繕うとする。普段から生真面目なメルシアだが、それだけに容赦のない指摘だった。

「確かに思っていた以上に若かったな。俺も学者肌の人物と聞かされていたので、もう少し年齢が上だと思っていた」

「そうでしょ?私もイメージとの違いで最初驚いたわ」

 エスティが狼狽える姿は新鮮な感じがしたが、レイガルは彼女に追従するように頷く。あまり追い詰めると癇癪を起こしかねないし、何より共感出来る話題だった。

「そうですね。私もそれを真っ先に感じました。おそらくは、後継者争いにおいて年齢が不利になると見て敢えて正確な年齢を表に出さないのかもしれません」

「・・・そんなところかしら。領主が出している後継者の条件ではあまり意味がないように思えるけど、若過ぎると不安に思う者もいるかもしれないからね」

 二人の見解にレイガルは静かに耳を傾ける。これまでは冒険を成功させることだけに集中していたが、この街が後継者争いに割れていることを思い出されたのだ。現在この争いの悪影響は遺跡探索における一部の冒険者が野盗化することでしか現れていないが、いずれは地下の遺跡だけでなく地上にも拡散する可能性があった。

「・・・これからは俺達もそんな後継者争いの渦中に入る覚悟が必要というわけだ」

「ええ、そう。あたし達を含む古井戸の冒険者が遺跡の深部に近づくことと、あの子が後継者に近づくことは同じ意味を持つ。だからこそギルドは頭角を現したあたし達に特別な褒美を出して、彼との面会の機会を作った。あの子自身が後継者になりたいかは定かではないけど、領主の座に就いた際には更なる褒美があることを匂わすためにね」

 後半は声を潜めてエスティはこれまでの結論を口にする。

「遺跡の罠や怪物に対処するだけでも大変なのに・・・」

「悲しいけど、人の最大の敵は人ってこと。・・・あたし達が最深部に到達出来るかどうかはわからないし、まだまだ先の話だけど、これまで以上に気を付けないといけないのは確かね!」

 レイガルはエスティの『悲しいけど』に集約された人間のしがらみとあらましさに嫌悪感を覚える。彼からすればコリンは冒険に憧れる無邪気な少年にしか見えないし、後継者争いを積極的に制しようとする欲望も感じられなかった。おそらくは、彼が領主になることでその恩恵を得られる側近や配下の者達が全てを仕切っているのだろう。

 もっとも、傀儡を立てて私腹を肥やそうする者達を糾弾する資格が、自身にあるとはレイガルも思わなかった。人は皆、生きるために必死なのだ。金のために命のやり取りを行う傭兵だった自分と、なりふり構わず権力を求める彼ら、いずれかが罪深いかを人の身で判断出来るはずがない。

「そうするしかないな・・・。まあ、今日はとりあえず飲もう!」

「そう、楽しむ時は楽しむ!そうでないとやっていられないからね!」

「はい!」

 悩んでも仕方がないこととして、レイガルは杯の麦酒を飲み干すと宴会の続きを促し、仲間もそれに応じる。悩みや楽しみも等しく享受し今日を生きる。これこそが冒険者の気概と言えた。

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